御伽草子。《塩売文正》《塩焼文正》《ぶん太物語》などとも呼ばれる。常陸国鹿島大明神の大宮司に仕える雑色(ぞうしき)の文太は,正直者であったが主から勘当され,〈つのおか〉の磯で塩を焼き,年月経て長者となり,文正〈つねおか〉と名のる。大宮司殿から子のないことの不運を諭された文正は,女房を叱り,鹿島大明神にこもり,7日目の夜半示現があって申し子を授かる。女房は十月経て美しい姫を産み,次の年も光るほどの姫御前をもうける。蓮華(れんげ)の花を賜った夢想に任せて,姫たちはそれぞれ蓮華・蓮(はちす)御前と名づけられる。才色兼備の美人となった姫たちを,大宮司殿や常陸の国司たちがうわさを聞きつけ嫁にとろうとするが,姫たちは一筋に仏道を願うのみで求愛を拒む。都の関白殿下の子二位中将殿はときに18歳,見ぬ恋に憧れ,商人(あきびと)に身をやつし,千駄櫃(せんだびつ)を背負い,兵衛佐以下を供として東(あずま)をさして下る。途中,ある山中で70~80歳ばかりの老翁(実は見通しの尉(じよう))に出会い,本性を見抜かれ,この年の暮れには恋が成就しようと予言される。一行は,鹿島大明神にまいってから文正の館(たち)を訪れ,言葉に花を咲かせて小間物を売り,すすめられるままに,館に逗留,中将殿は姫たちに美しい品々を贈る。姫君は一行が邸内の御堂で管絃を奏でるのを聴聞した折,中将殿を見そめる。その夜,蓮華のもとに忍び契りを交わした中将殿は,身の上を打ち明ける。また,管絃を聴聞しようと大宮司殿が訪れその際,商人と思っていたのが中将殿であると知った文正は狂喜する。中将殿は姫君と文正夫婦を具し,東国大名一万余騎,介錯役大勢を伴い都へ上る。帝の仰せで妹の蓮は父母とともに都へ上り,女御となる。中将殿は大将に,文正は宰相に昇進,一門は栄華を誇った。祝言性がきわめて濃いこの作品は御伽草子の中で伝本の数が最も多く,豪華な絵巻や奈良絵本にも仕立てられている。御伽文庫(渋川版)では23編の第一に据えられ,巻末に〈めでたきことのはじめには,此さうしを御覧じあるべく候〉とあって,江戸期には女子の読み始めの吉書(《用捨箱》上巻)とされ,婦女子の読者に特に愛読された。別本に,絵巻《ぶんせう》2巻(アメリカ,フォッグ美術館)がある。
執筆者:徳江 元正
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御伽草子(おとぎぞうし)。作者未詳。室町時代の作。常陸(ひたち)国鹿島(かしま)大宮司の雑色(ぞうしき)であった文太は、製塩業に成功して一躍長者となり、文正と名のった。鹿島大明神(だいみょうじん)に祈って2人の美貌(びぼう)の女子を授かったが、成長した娘は気位が高く、次々とおこる縁談にも応じないでいた。そのうわさを聞いた時の関白の嫡子中将は、見ぬ恋にあこがれ、商人姿となって常陸へ下ると、文正の館(やかた)に宿って、ついに姉娘と契りを結ぶ。姉は都へ迎えられて中将の北の方となり、妹娘は帝(みかど)の女御(にょうご)に召され、文正も公卿(くぎょう)の座に連なって末長く栄えた。致富と出世と長寿というめでたずくめの物語として、江戸時代には正月の草子の読み初めに用いられた御伽草子の代表作である。
[松本隆信]
『市古貞次校注『日本古典文学大系38 御伽草子』(1958・岩波書店)』▽『大島建彦校注・訳『訳完日本の古典49 御伽草子集』(1983・小学館)』
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室町物語の庶民物。作者不詳。室町時代に成立。常陸国鹿島大明神の大宮司に仕える文太は,主人に追放されるが製塩業で長者となり,「文正つねをか」と名のる。文正夫婦は鹿島大明神に願をかけ2人の娘を授かる。姉妹は美しく成長するが,関八州の大名,大宮司の子,国司らの求愛をうけつけない。うわさをきいた関白の子二位の中将は,商人に身をやつし文正の館を訪れ,身分を明かして姉と契りを結ぶ。姉は中将とともに上京,妹は天皇の中宮となり,文正も宰相の位に上り一門は繁栄する。「大黒舞」などと同様,正月の祝儀の場で読まれた祝儀物の代表作。「日本古典文学全集」所収。
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〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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