雑色(読み)ゾウシキ

デジタル大辞泉 「雑色」の意味・読み・例文・類語

ぞう‐しき〔ザフ‐〕【雑色】

律令制における品部しなべ雑戸ざっこ総称
蔵人所くろうどどころの下級職員。公卿子弟などが任じられた。
院の御所摂関家などで、雑務に従事した無位役人
鎌倉・室町幕府雑役に当たった下級役人。小舎人こどねり走衆はしりしゅうの類。

ざっ‐しき【雑色】

ざっしょく(雑色)」に同じ。
ぞうしき(雑色)」に同じ。
院宣をば文袋に入れて、―がくびにぞかけさせたりける」〈平家・八〉

ざっ‐しょく【雑色】

いろいろな色がまじった色。また、さまざまな色。
ぞうしき(雑色)

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精選版 日本国語大辞典 「雑色」の意味・読み・例文・類語

ぞう‐しきザフ‥【雑色】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ぞうしきにん(雑色人)」の略。
    1. [初出の実例]「凡帳内資人等本主亡者。〈略〉其雑色任用者。考満之日。聴内位」(出典:令義解(718)選叙)
    2. 「殿に仕うまつる人、さふしき牛飼まで、この少将殿になびき奉らぬなし」(出典:落窪物語(10C後)二)
  3. ぞうしきにん(雑色人)」の略。
    1. [初出の実例]「是日勅始置内匠寮。頭一人〈略〉史生八人、使部已下雑色匠手各有数」(出典:続日本紀‐神亀五年(728)八月甲午)
  4. ぞうしきにん(雑色人)」の略。
    1. [初出の実例]「さふしき随身はすこしやせてほそやかなるぞよき」(出典:枕草子(10C終)五三)
  5. 平安時代以後、公家・武家の家の従者。雑役をつとめる。
    1. [初出の実例]「正家〈略〉、雑色に仕ひける男有けり」(出典:今昔物語集(1120頃か)一三)
    2. 「武家に雑色と申は中間より下り馬屋の者より上り也。公家には中間を雑色と被仰候」(出典:随筆・貞丈雑記(1784頃)四)
  6. 中世、鎌倉・室町幕府、守護所などで、雑役をつとめた下級の職員。
    1. [初出の実例]「朝夕候雑色数」(出典:吾妻鏡‐治承四年(1180)一二月二八日)
    2. 「我は六波羅殿の御雑色(ザウシキ)に、六郎太郎と云ふ者にて候へば」(出典:太平記(14C後)九)
  7. いろいろの色。白以外の色の総称。
    1. [初出の実例]「数群胡蝶飛乱空 雑色紛紛花樹中」(出典:文華秀麗集(818)下・舞蝶〈嵯峨天皇〉)
    2. 「七宝の雑色(しちほうのサウシキ)(〈注〉ななつのたからのマシワレルイロ)の樹には、つねに華菓実あらん」(出典:妙一本仮名書き法華経(鎌倉中)二)

ざっ‐しき【雑色】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 貴顕の家や官司などに仕えて、雑役を勤めた卑賤の者の称。ぞうしき
    1. [初出の実例]「院宣をば文袋に入れて、雑色(ザツシキ)〈高良本ルビ〉が頸(くび)にぞかけさせたりける」(出典:平家物語(13C前)八)
  3. ざっしょく(雑色)

ざっ‐しょく【雑色】

  1. 〘 名詞 〙
  2. いろいろまじった色。また、さまざまな色。ざっしき。ぞうしき。〔改正増補和訳英辞書(1869)〕
  3. ぞうしき(雑色)

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改訂新版 世界大百科事典 「雑色」の意味・わかりやすい解説

雑色 (ぞうしき)

雑色とは本来,種別の多いことおよび正系以外の脇役にあるものを意味し,形容詞としても使われたが,そうした傍系にある一群の人々,すなわち雑色人も雑色とよばれた。古代には四等官の正規の官人に対する準官人,農耕を本業とする思想によって末業の工芸民,諸司に分属して専門技術に従う伴部や使部など,その場所と立場に応じて異なった内容をもっている。古くは公民の最下部に属して賤民に近い品部(しなべ)・雑戸(ざつこ)を指す階級身分の語と解する説が行われたが,それは正確ではなく,書算など才技のある白丁(はくてい)が官人に出身する一つの経路でもあった。

 律令制下の雑色としては諸司雑色,諸国雑色,諸家雑色などがある。諸司雑色は四等官の下部に属した判補の職で,課役を免除され,考課によって舎人(とねり),史生(ししよう)に任ずる道も開かれていた。図書寮の写書手,装潢手,造紙手,雅楽寮の倭楽生,唐楽生なども雑色で,寺社の造営に当たった主典(さかん),領などの書記官や仏工,画師,鉄工,木工なども雑色とよばれた。品部・雑戸との関連を思わせる者もあるが,有位者も少なくない。雑色の人数は〈民部式〉に大国60人,上国40人,中国30人,下国20人とみえ,諸省に配属されたが,国衙・郡衙に属して民政の実務に携わる者もあり,平安時代には国衙在庁の構成員となり,給田として雑色田も設けられた。諸家雑色は家司(けいし),帳内,資人とともに主家の家務に従事したが,平安時代には地方の富豪層が王臣家の雑色などとなり,本主の威をかりて国郡司の命に従わない現象も現れた。春宮坊や摂関家の家政機関に属した雑色には,蔭孫や受領の子などのしかるべき家柄の者が任じられたが,とくに蔵人の雑色は,本員数8人で代々蔵人に補せられる名誉の職とみなされていた。

 鎌倉幕府の創立期,源頼朝の雑色は政治的にもめざましい活躍をみせ,足立(安達)新三郎清恒のように,物語上での雑色の典型人物も現れる。彼らは御家人とは違って確たる本領をもたぬ者たちであったが,頼朝の身辺に仕えてその信頼は厚く,しばしば御使として機密を要する事に従い,囚人の護送,賓客の護衛,敵情の偵察,合戦の検見や,訴訟事件の調査,御家人の交名(きようみよう)の作成などの要務に当たっている。しかし幕府の官制が整うにつれて雑色の活動分野は狭められ,幕府体制下では,小侍所の指揮下で将軍出御に供奉するほか,朝夕(ちようじやく)雑色は雑色番頭に属して御所内の雑務に当たり,国雑色は召文配布などの雑事を勤めている。室町幕府でも雑色は公人番頭のもとで同様の雑事に当たったが,その衣服料は奉公衆にあて課された。また江戸時代の京都には四座雑色と称する上4人,下8人の雑色があり,京都での諸行事と要人の警固,民衆への布告の伝達,その訴訟の取次ぎ,宗門改帳の取次ぎ提出,牢屋の詰番などに当たった。四条室町を起点に京都を四分し,五十嵐松村松尾荻野の上雑色4家で分担したが,所司代の管轄下で公家・幕府と民衆との中間に介在する半ば自治的な町役人として絶大な権力をもっていた。なお,幕府以外の一般の雑色の身分について《貞丈雑記》は,武家では中間(ちゆうげん)より下で馬屋の者より上,公家では中間を雑色という,と解説している。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「雑色」の意味・わかりやすい解説

雑色
ぞうしき

古代の律令(りつりょう)制に始まる用語で、中世より近世まで用いられたが、いずれも下級の諸種の身分と職掌を表す。

 古代では、「諸司雑色人」といって、朝廷の官人や有位者の下にあって、雑使に従う使部(しぶ/つかいのよぼろ)、宮廷の諸門の守衛、殿舎の清掃・管理・修理、乗輿(じょうよ)の調進、供御(くご)の食物の調理、水氷の供進などにあたる伴部(ばんぶ/とものみやつこ)などの職種があった。それより身分が低く、宮廷工房で生産にあたる品部(しなべ)・雑戸(ざっこ)も雑色に含める解釈もあり、各官司で、写書、造紙、造筆、造墨、彩色、音楽などに従う諸生・諸手もそうよばれた。また造寺司のもとの各所の下級官人や、仏工、画師、鋳工、鉄工、木工、瓦(かわら)工などの工人も、このうちに含まれる。これらは、一般の農民=白丁(はくてい)とは区別され、属吏としての身分をもち、また官位を有するものもあり、課役を免除される点に特色がある。

 その後、雑色の概念は拡大され、「諸国雑色人」といって、国衙(こくが)や郡家で、上記に準じた身分のもの、「諸家雑色人」として貴族の家務に従う従者にも適用され、また蔵人所(くろうどどころ)をはじめ政府の諸所が成立すると、蔵人所雑色のような特殊なものも現れる。

 中世に入って、武家の従者が雑色とよばれるのは、おもに「諸家雑色人」の系譜を継ぐもので、幕府の番衆の下級役人から、一門以外の従者に及ぶまで用いられた。

[平野邦雄]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「雑色」の意味・わかりやすい解説

雑色
ぞうしき

(1) 令制において,品部 (ともべ) ,雑戸 (ざっこ) と併称される官制の下部組織。中央官司で手工業に従事したり,郷土での生産にたずさわった。 (2) 院,御所,官衙,公家などに奉仕して雑役に従ったもの。 (3) 蔵人所の下級官人。定員8名,公家の子弟などが任じられた。 (4) 鎌倉,室町幕府の職名。鎌倉幕府では侍所に属した最下級役人。室町幕府では触状の使者などをつとめた。 (5) 近世には,四座雑色と称し,五十嵐,松村,松尾,荻野の4氏 (上雑色) が分掌して京都所司代に属し,京都の行政,警察,司法の業務を補佐した半官半民的な役人組織。上雑色の下に下雑色,見座,中座,穢多,非人が属した。

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百科事典マイペディア 「雑色」の意味・わかりやすい解説

雑色【ぞうしき】

下級役人。本来は律令制官僚集団の下部組織をなした雑多な職種の総称。下級の技術者も含むが,一般には雑役,走使いを勤めた。鎌倉幕府成立当初は源頼朝の身辺に仕える要職であったが,のち活動分野が狭められ,雑事に当たった。→四座雑色
→関連項目文正草子

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「雑色」の解説

雑色
ぞうしき

雑色人とも。組織・支配系統のなかで下層に位置づけられた人々をさす。具体的な内容は時代・用例により異なる。古代では(1)品部(しなべ)・雑戸(ざっこ)の総称,(2)官衙の下級職員,(3)王臣家の下級家務従事者,(4)国家の造営事業に従事した工匠などの総称,といった用例がある。なお(3)の用例は中世以降にもみられる。中世ではこのほかに幕府で雑役を勤めた下級職員をさす場合もある。近世の京都では四座雑色(しざのぞうしき)という町役人的存在がみられる。

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旺文社日本史事典 三訂版 「雑色」の解説

雑色
ぞうしき

古代以来,雑事などにたずさわった人びと
①古代の諸官庁に隷属していた最下級の役人。宮廷工房の手工業に従事した。
②院・御所・摂関家で雑役に従事した下級の役人。
③蔵人所 (くろうどどころ) に置かれた下級の職名。
④鎌倉・室町時代,諸家に仕えて雑役に従事した足軽・従者などのこと。

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普及版 字通 「雑色」の読み・字形・画数・意味

【雑色】ざつしよく

雑胡。

字通「雑」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の雑色の言及

【蔵人所】より

…供御物貢進の体制は,その後11世紀後半以降再び大きく改革され,中世的な御厨と供御人(くごにん)の体制が成立するが,蔵人所はひきつづき供御人に対する裁判権を掌握し,その本家的な存在として,彼らの活動を保護する一方で,彼らの奉仕による収入を重要な経済基盤とした。
[蔵人所の職員]
 蔵人所には別当,蔵人頭,蔵人,非蔵人,雑色(ぞうしき),所衆,出納,小舎人(こどねり),滝口鷹飼等の職員が置かれた。別当(1名)は蔵人所の総裁である。…

【四座雑色】より

…五十嵐,荻野,松村,松尾の4氏が統括したので四座と称した。四座雑色の起源は室町幕府で京都の検断を行った侍所の小舎人雑色にもとめられるが,江戸幕府による京都支配機構の末端に組み入れられたのは1601年(慶長6)板倉勝重が四座に四方内を分担させて以来のことである。もとは荻野,五十嵐の2氏のみであったが,足利義政のころに松尾,松村の2氏が加えられた。…

※「雑色」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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