出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
平安中期の歌学書。藤原公任(きんとう)著。成立年時は未詳。現存本は序文を欠き、種々不整備な点がみられることから、脱落説、錯簡説などがある。内容は、秀歌論、秀歌例、歌病論、本歌論、歌体論(旋頭歌(せどうか)のみ)、歌枕(うたまくら)論にまで及び、体系だった本格的な歌論書の形態を有している。「およそ歌は心深く、姿清げにて、心にをかしき所あるをすぐれたりといふべし」という秀歌論の叙述はとくに有名で、その「心姿」の論は、公任歌論の真髄を示すものとして、後代の歌論に多大な影響を与えた。
[平田喜信]
『久松潜一・西尾実校注『日本古典文学大系65 歌論集 能楽論集』(1961・岩波書店)』
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…歌合のこうした要請から,〈歌論〉は隆盛に向かい,精密化されていったのである。まず,10世紀末から11世紀前半に活躍した藤原公任の著作《新撰髄脳(しんせんずいのう)》と《和歌九品(わかくほん)》がある。〈凡そ歌は心深く,姿清げにて,心にをかしきところあるをすぐれたりといふべし〉(《新撰髄脳》),〈詞たへにして余りの心さへあるなり〉(《和歌九品》)と秀歌の条件が記されているとおり,〈心〉と〈言葉〉の調和を重視しつつ,漠然とながら,余情という一つの価値規準への回路を開き,心詞の関係に歴史的方向性を与えたのであった。…
…したがって姿は生まれつきのものではなく,心によって変えられると考えられた。歌学の用語として姿ということばをとりあげたのは,平安時代中期の藤原公任で,その歌論書《新撰髄脳》は,心と詞の調和を説いた紀貫之の《古今和歌集》仮名序の論を発展させ,心と詞が一体になったときにすぐれた歌が生まれ,それは歌の姿の美しさとしてあらわれると説いている。さらに歌の理想の姿は〈余りの心〉をもたらすという公任の論が,藤原俊成の〈余情〉,藤原定家の〈有心〉へと展開したことが示すように,歌の姿の論議は歌論の中心の一つになった。…
※「新撰髄脳」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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