日本大百科全書(ニッポニカ) 「新生児分娩損傷」の意味・わかりやすい解説
新生児分娩損傷
しんせいじぶんべんそんしょう
birth injuries of the newborn
出生時期におこる新生児の障害のなかで、内因性の無酸素脳症などとは別に、おもに外因性のものをさす。おもなものを次にあげる。
(1)上腕神経叢麻痺(そうまひ)が、分娩麻痺の大部分であり、もっとも重要である。その大半は頸椎(けいつい)の5番、6番のレベルの障害で、エルブErb麻痺とよばれ、いわゆるporter tip hand(ポーターが後ろ手でチップを受け取るような手の形)をとり、上肢を挙上することができない。多くは一時的で数週間内に回復するが、恒久的に麻痺が残る症例もある。原因は分娩時の上腕の過伸展によるものであり、臀位(でんい)分娩に合併することが多い。
(2)産瘤(さんりゅう)は、頭皮先進部が産道を通過する際に圧迫されて生ずる一時的な浮腫(ふしゅ)であり、数日の経過で消失する。
(3)頭血腫は骨と骨膜の間が剥離(はくり)することによってその間隙(かんげき)に出血するものであり、生後数時間してから明らかとなる。黄疸(おうだん)を増強することは知られているが、とくに治療は必要とせず、2、3か月の経過で吸収される。
(4)帽状腱膜(けんまく)下出血は、おもに吸引分娩などで頭皮が縦方向に引っ張られることによっておこる帽状腱膜(頭皮の下にある薄い筋層や結合組織の膜)と皮下組織の断裂であり、思わぬ大出血の原因となりうる。
(5)頭蓋(とうがい)の線状骨折や陥没骨折は、分娩時の外傷によるものである。線状骨折はとくに治療を要しないが、陥没骨折では骨折に一致した局所症状がみられる場合は緊急の手術が必要となる。
(6)硬膜下血腫や脳実質内血腫も分娩時外傷でおこることがあり、大泉(だいせん)門が膨隆しているときは超音波やコンピュータ断層X線撮影(CT)などの検査をただちに必要とする。
[仁志田博司]