狭義には、新聞という定期印刷刊行物による時事に関する報道・論評の社会的伝達現象を対象とする学問をさすが、広義には、新聞だけでなく、放送、雑誌、映画など広くマス・メディアによる情報の社会的伝達現象を対象とする学問(公示学Publizistikwissenschaft〔ドイツ語〕)と同義。今日では後者が一般的である。その意味で、広義ではマス・メディアによる社会的伝達現象一般を対象とするマス・コミュニケーション学に類似しているが、新聞学がどちらかといえば送り手側に寄っているのに対し、マス・コミュニケーション学は、受け手側に寄っている点に若干の相違が認められる。
狭義の新聞学は、新聞の普及発達が一定段階に達し、新聞の社会的影響力が強大複雑化し始めた19世紀末~20世紀初期の欧米でおこった。主要な潮流には、(1)新聞と社会の関係の本質に関する文化科学的研究(ドイツ)、(2)新聞と世論・社会意識の関係に関する社会学的研究(フランス、アメリカ)、(3)あるべき新聞を実現するための実際的研究(アメリカ)、(4)新聞を共産党の扇動・宣伝の手段と規定する社会主義的研究(旧ソ連、中国)などがあり、なかでも(1)(3)(4)が中心となって展開されてきた。20世紀には、映画、ラジオ、テレビなどの新しいマス・メディアが登場し大きな影響を及ぼし始める。こうした新聞以外のメディアの発達を踏まえて、第二次世界大戦後、(2)の系譜を引きつつアメリカでマス・コミュニケーション学が新たにおこり、その影響を受けて、新聞学も狭義から広義に転換し、かつ社会科学としての新聞学が志向されるようになった。日本では、戦前の(1)の流れをくむ小野秀雄らと、(3)の系譜を踏む松本君平、杉村楚人冠(そじんかん)らの狭義新聞学から、戦後は広義新聞学に変化し、事実上マス・コミュニケーション学と同義に扱われている。
[内川芳美]
『小野秀雄著『新聞原論』(1947・東京堂出版)』▽『松本君平著『新聞学』(1899・博文館)』▽『杉村楚人冠著『最近新聞紙学』復刻版(1970・中央大学出版部)』▽『南博著『マス・コミュニケーション入門』(1978・光文社)』▽『稲葉三千男・新井直之・桂敬一編『新聞学』(1995・日本評論社)』▽『天野勝文・村上孝止編『現場からみた新聞学』(1996・学文社)』
狭義では社会的な情報伝達機構としての新聞に関する学問をいい,広義には社会的情報の大量・同時伝達事象としてのマス・コミュニケーションに関する科学と同義である。後者の場合は新聞のみならず放送,映画,雑誌,出版などマス・メディア(大衆媒体)総体を意味することになる。歴史的には狭義から広義へと変化してきたといえる。新聞の学問的研究は,近代新聞が普及発達し情報伝達機構として重要な役割を演じはじめた19世紀末葉に始まり,20世紀に入って急速な発展をとげた。これには三つの流れがあった。第1はアメリカのプロフェッション(専門職業)としてのジャーナリズムに関する実際的新聞学。第2はドイツで発達した新聞の本質や新聞と社会の関係法則などに関する理論的新聞学Zeitungswissenschaft。第3はソ連のイデオロギー的宣伝扇動の手段としての新聞に関する社会主義的新聞学である。しかし,第2次大戦中の1940年代初期にアメリカに各種のマス・メディアによる情報伝達事象を統一的に把握するマス・コミュニケーションの概念と理論が新たに興り,第2次大戦後に飛躍的な発展をとげ,社会主義圏を除く世界の新聞学の主流となるにいたっている。
日本でも第2次大戦前は狭義の新聞学であった。最も古い文献は松本君平《新聞学》(1899)である。アメリカの実際的新聞学の系統に属する本で,杉村広太郎(楚人冠)《実際新聞学》(1915)も同類である。その後,日本の新聞学研究が本格化したのは1929年東京帝国大学に日本最初の新聞学研究施設である文学部新聞研究室が創設されて以後のことで,初代主任の小野秀雄はドイツの理論的新聞学を導入し,新聞学の学問的発展の基礎を開いた。しかし,第2次大戦後には,日本の新聞学にもアメリカのマス・コミュニケーション理論が流入し,マス・コミュニケーション科学が新聞学の主流をなし,今日に至っている。
執筆者:内川 芳美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…これには三つの流れがあった。第1はアメリカのプロフェッション(専門職業)としてのジャーナリズムに関する実際的新聞学。第2はドイツで発達した新聞の本質や新聞と社会の関係法則などに関する理論的新聞学Zeitungswissenschaft。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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