月周リズム(読み)げっしゅうリズム(英語表記)lunar rhythm

改訂新版 世界大百科事典 「月周リズム」の意味・わかりやすい解説

月周リズム (げっしゅうリズム)
lunar rhythm

太陰リズムともいう。月の位相と関連した生命現象は海岸の生物に広く見られるもので,すでに古代のギリシアや中国で知られていた。フロリダ地方の浅海底に生息するイソメ科のEunice fucataは6月下旬から7月下旬の下弦の月のころに生殖群泳を行い,これは大西洋パロロpaloloと呼ばれ古くから知られている。日本産のイトメも10月から11月の新月満月の数日後に生殖群泳を行う。南カリフォルニアの砂浜には3月から9月にかけて新月や満月の数日後,夜の大潮に乗ってグルニオンgrunionというトウゴロウイワシ科の魚が大群をなして産卵にくる。砂中に産まれた卵は次の大潮時に孵化ふか)して再び海へ帰る。日本産のクサフグも5月から8月の新月や満月後の数日間に沿岸の産卵場に多数集まり産卵する。このほか,月の位相と関連した生殖現象は,サンゴ,ウニ,イタヤガイなど多くの海産動物をはじめ,海産の藻類にも知られている。このような現象は,ふつう約30日あるいは15日周期で起こり,月周リズムと呼ばれるが,とくに後者の場合を半月周リズムということもある。海産の生物の生殖活動に月周リズムがあることは,明らかに雌雄の配偶子の出会う確率を高めている。月周リズムが生物に内在する内因性リズムに基づくことがいくつかの生物でわかっている。褐藻類アミジグサの配偶子放出,ゴカイ科Platynereisの生殖やウミユスリカの羽化リズムはいずれも月光の影響のない人工照明下でも持続し,またそれらは人工月光によって同調される。ウミユスリカの場合には潮汐ちようせき)サイクルも同調因子となることが実験的に証明されている。一方,月周リズムのメカニズムについては,生物が約15日とか30日周期の内的リズムをもつためでなく概日リズム潮汐リズムの複合作用の結果生じるにすぎないという仮説(ビート仮説)が有力で,それを支持する例がアミジグサや有明海に生息するムツゴロウの活動で示されている。しかし,先に述べたPlatynereis,緑藻のHalicystisや等脚類のExcirolanaの月周リズムのように,ビート仮説では説明できない例もいくつかある。

 月周リズムは海産の生物に限らず陸生の動物にも見られる。海岸から多少はなれた山間部に生息するアカテガニは満月と新月のころに海岸や近くの川に下りてきて幼生を放出するため,幼生はすみやかに海に到達することができる。このカニの半月周リズムも内因性で,人工月光により同調されることが証明されている。内陸部に生息する昆虫の飛翔(ひしよう),鳥のさえずりや哺乳類の生殖活動でも月光の作用が認められている例があり,マレー半島の森林にすむネズミは満月前に最も高い受胎率を示す。しかし,家の中やアブラヤシ地にすむネズミでは月光の作用は明りょうではない。ヒトの排卵周期についても,月の位相との相関が莫大な資料をもとに調べられているが明りょうな結果は得られていない。これはヒトが人工光を用い,自然とかけ離れた生活をするためであると考える学者もいる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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