有得銭とも書く。あるいは徳銭,徳役,有福ともいう。中世では徳=得であり,有徳人とは富裕な人をいった。その有徳人に賦課した臨時税が,有徳銭である。当初は臨時の借米であったが,のちには課税となり,だんだん恒常的な性格をもってきた。早い例として,鎌倉末期,1304年(嘉元2)東大寺が伊賀国黒田荘に課した有得借米や14年(正和3)やはり同荘に課した有得御幸銭を見ることができる。94年(応永1)将軍足利義満の日吉社参詣に際し,比叡山延暦寺が坂本の富裕の輩に,借用の形で,1200貫を徴したのも,有徳銭といえよう。興福寺が,支配下の有徳人にたびたび賦課したのは,《大乗院寺社雑事記》に散見するところであり,興福寺の恒例,臨時の法会の費用,将軍・公卿の下向費用などにあてている。戦国期になると,興福寺衆徒の賦課は頻度を増し,筒井・越智・古市などの国人層も賦課を行っている。
室町幕府も,産所経営費用や,元服費用として賦課しており,例えば,1494年(明応3)足利義高元服に際し,徳役として借用銭を,膝下の京都町人にかけている。守護大名の山名,細川,今川の諸氏も領国内の富裕民に課した。もっとも多く課されたのは室町・戦国期であり,商品経済の浸透にともない,新興の商工業者や,土倉・酒屋などの金融業者など,凡下(ぼんげ)身分のものを対象として課税された。段銭,棟別(むなべち)銭などとちがって,特定の地域の特定の人間に課されるのを特徴とした。賦課額は富裕度に応じて,上・中・下などの差を設ける場合もあった。文明年間(1469-87)以後には個人あてではなく,郷を単位に賦課したものもある。江戸時代,富裕町人に課した御用金の前身ともいえるものである。
執筆者:脇田 晴子
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