〈むねべつせん〉〈むなべつせん〉とも読み,〈棟役(むねやく)〉ともいう。鎌倉時代後半から戦国時代にかけて見られた家屋税。家屋の棟数に応じて賦課された。社寺の修造をおもな目的とするが,朝廷の費用や橋の築造に充てる場合もある。13世紀末,勧進に代わる社寺の造営費用調達の方法として,創設された。全国的なものや特定の国に課すものなどさまざまで,たとえば13世紀末の東寺や東大寺食堂(じきどう)の造営は全国的なものであるのに対して,14世紀初頭の甲斐国大善寺再興の場合は甲斐・信濃を対象としている。手続的には朝廷の許可が必要であるが,勧進の方式を継承して,社寺の造営責任者が当該国の守護の協力を得て棟別に10文程度の徴収を行うのが基本である。しかし関東御分国など地域によっては,守護が一括徴収する場合もある。室町時代に入ると,棟別銭の賦課を許可する権限は室町幕府に移ったが,徴収方法は前代のものを踏襲している。たとえば15世紀初頭,東寺修理費用を目的として,越中・丹後から10文ずつの棟別銭徴収が許可され,東寺の派遣した使者が荘郷ごとに徴収を行おうとしたが,武家領の給人をはじめとする現地の抵抗によって徴収は困難を極めた。こうした状況に対応するために,しだいに全面的に守護に依存した徴収方法が採られるようになった。また,一方で棟別銭の頻度が増すに従って,徴収を請け負う守護は何かと名目をつけて独自の棟別銭を自国に課すようになり,本来臨時課税であった棟別銭はしだいに恒常的な課税へと変質していった。
戦国時代の棟別銭は,段銭とともに戦国大名の一国規模の支配を示し,一国にわたる棟数の基本台帳が作成されていたことが知られる。しかし前代の単純な継承ではなく,検地に基づく税制改革の結果,他の課役も含み込んで,棟別に50~100文と重い負担になっている。後北条氏の場合,徴収された棟別銭は陣衆に与えられることになっており,中間衆に与えられる段銭と並んで,戦国大名の軍事力を支えていたことがわかる。〈今の世にいふ運上は,古くは山手・川手・関手・棟別銭などいへるものにて〉(《松屋筆記》)と述べられていることから,江戸時代では運上の中に包括されたと考えられる。
執筆者:馬田 綾子
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中世の課税の一種。「むなべちせん」とも読む。家屋(棟)単位に課せられたのでこの称があり、鎌倉時代から朝廷が寺社や禁裏の造営のために国を特定して課したことは、段銭(たんせん)と同様である。室町時代には幕府、ついで守護がこの賦課の権限を継承し、戦国大名は恒常的な税目とした。棟別銭は段銭とともに、戦国大名が課する諸税のなかではその中心に位置づけられた。後北条(ごほうじょう)氏は一間(軒)別50文であった棟別銭を、1550年(天文19)に35文に軽減し、段銭、懸銭(かけせん)とともに税制の柱に据えている。武田氏の領国では一間別200文と多かったが、50文から100文が一般的であった。しかし石高(こくだか)制の成立によって屋敷地も高附(たかづ)けされ、年貢賦課の対象に組み込まれたため、棟別銭は消滅した。
[村田修三]
「むなべちせん」とも。鎌倉末期から家屋の棟を単位として課した税。朝廷の費用や寺社・橋の修造料として臨時に課された。全国または特定の国・地域にかける場合があり,鎌倉時代には朝廷,室町時代には幕府の許可が必要であった。徴収は荘郷ごとに社寺の使が行ったり,守護が行ったが,棟別を把握した台帳は確認されておらず,実際の徴収は現地の家々を把握していた熊野修験の山伏や伊勢の御師(おし)などに依存したのではないかとの見方もある。守護は,しだいに段銭(たんせん)同様に諸名目で独自に賦課し恒常化していく。戦国大名は,検注により棟数を把握し,基本台帳を作成して諸課役とともに賦課した。はじめは棟別10文だったが,戦国大名のもとでは100文ほどになった。
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…しかし関東御分国など地域によっては,守護が一括徴収する場合もある。室町時代に入ると,棟別銭の賦課を許可する権限は室町幕府に移ったが,徴収方法は前代のものを踏襲している。たとえば15世紀初頭,東寺修理費用を目的として,越中・丹後から10文ずつの棟別銭徴収が許可され,東寺の派遣した使者が荘郷ごとに徴収を行おうとしたが,武家領の給人をはじめとする現地の抵抗によって徴収は困難を極めた。…
※「棟別銭」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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