六訂版 家庭医学大全科 「有機リン剤中毒」の解説
有機リン剤中毒
ゆうきリンざいちゅうどく
Organophosphate poisoning
(中毒と環境因子による病気)
どんな中毒か
有機リン剤は、動物の神経機能を麻痺させる殺虫剤で、40種類以上あり、最も多用されている農薬です。農村地帯では、除草剤と並んで中毒死の主な原因物質で、その剤型は乳剤、水和剤、粉剤、粒剤と多様です。
主に誤用、服毒で体内に入ります。有機リン剤は体内でアセチルコリンエステラーゼ(AChE)と結合し、その分解酵素としての作用を阻害します。その結果、コリン作動性神経終末にアセチルコリンが過剰に蓄積するため、さまざまな中毒症状が発生します。
症状の現れ方
大量服毒の場合、中毒症状は数分から数十分後までに現れ、急速に悪化しますが、治療によりいったん改善した症状が、数日~2週間後に再燃して長引く
治療の方法
治療は、初期の徹底的な消化管洗浄に加え、解毒剤としてヨウ化プラリドキシム(PAM)が用いられます。対症療法としては、硫酸アトロピンの投与と呼吸・循環管理が重要です。
有機リンはAChEと反応してAChEの活性を阻害しますが、これにPAMを反応させるとリン酸残基が取り除かれ、AChEは活性を復活します。しかし、時間が経過するとリン酸残基の脱アルキル基化が起こり、PAMはもはやリン酸残基と反応しなくなります。この現象をエイジング(aging)といい、速度は有機リン剤の種類によって異なります。
強毒性のパラチオンは48時間後でもほとんどエイジングが進まないのに対し、現在の有機リン剤の主流である弱毒性のフェニトロチオンやマラチオンは、24~48時間でエイジングがほぼ完了します。すなわち、PAMは強力な
一方、アトロピンは有機リンが代謝・排泄されるまでの対症療法的な拮抗薬です。初期の徹底的な消化管洗浄、適切な解毒薬の投与、人工呼吸管理などのため、重症の場合は集中治療室に収容します。
なお、
吉岡 敏治
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報