未破裂脳動脈瘤

EBM 正しい治療がわかる本 「未破裂脳動脈瘤」の解説

未破裂脳動脈瘤

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 動脈の一部がこぶ状(じょう)に膨(ふく)れている状態を動脈瘤(どうみゃくりゅう)といいます。未破裂脳動脈瘤(みはれつのうどうみゃくりゅう)とは、脳に動脈瘤があるもののまだ破裂していない状態にあるものです。未破裂脳動脈瘤があっても、痛みや違和感などの症状は、とくにありません。CT、MRIなど画像診断技術の進歩で、以前は見つからなかった未破裂脳動脈瘤が、多数発見されるようになりました。
 脳動脈瘤はいったん破裂すると、くも膜下出血となり、初回の出血で約20~50パーセントが死亡する怖い病気です。ただし、脳動脈瘤があっても破裂する確率は必ずしも高くないため、治療安全性との関係から、積極的に治療すべきかどうかについて議論があり、統一した見解はありません。
 医療機関によって対応は異なりますが、動脈瘤の直径が5~7ミリメートルを超えた場合は積極的な治療の対象とし、これより小さなものは経過を観察するにとどめるのが現在のところ一般的のようです。(1)
 ただし、動脈瘤が大きくなって周囲の脳や神経を圧迫している場合は、すぐに積極的な治療が必要です。神経が圧迫されると、物が二重に見えたり、視力が低下したりします。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 脳血管の分岐部には、もともと中膜(ちゅうまく)が欠損していて血管壁の弱い部分があります。この部分に血圧と血流の負担が長期間加わることによって、動脈瘤ができると考えられています。したがって、脳動脈瘤ができやすいのは高血圧の人です。このほか、脳動脈硬化、細菌感染、外傷、喫煙などが脳動脈瘤と関連があるとされています。

●病気の特徴
 未破裂脳動脈瘤は成人の数パーセントに見つかるといわれています。発症年齢は50歳~60歳代がもっとも多くなっています。
 従来、未破裂脳動脈瘤は年間1~2パーセントの確率で破裂すると考えられていましたが、最近の日本人を対象にした全国調査によると、0.76~0.95パーセントという結果でした。しかし出血後の死亡率は52パーセントで、破裂の危険因子としては大きさ、部位(前交通動脈瘤など)、動脈瘤の形状などが報告されています。(2)(3)


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]脳動脈瘤頸部(のうどうみゃくりゅうけいぶ)クリッピング術を行う
評価]☆☆
[評価のポイント] 破裂を予防するための手術に対して有効性を示した臨床研究は見あたりません。未破裂脳動脈瘤は、破裂してくも膜下出血をおこす可能性があります。くも膜下出血は死亡率が高く、また死亡しなくても重い後遺症を残すことがあります。破裂を予防する方法として、脳動脈瘤頸部クリッピング術と脳血管内手術による塞栓術(そくせんじゅつ)があります。ただし、これらの手術にもまったく危険が伴わないわけではありません。動脈瘤を放置して破裂する危険性と手術による危険性をよく考えて、治療方針を決定する必要があります。予防的な手術を行うかどうかを決定するうえで、もっとも重要なことは動脈瘤の場所や大きさから考えた安全性です。十分に安全な処置ができると判断される場合に限り行われるべきでしょう。一方、手術自体の危険性が高い脳動脈瘤の場合は、たとえ破裂する可能性があっても放置するほうがむしろ安全といえるかもしれません。(4)

[治療とケア]脳血管内手術による塞栓術を行う
[評価]☆☆
[評価のポイント] いったん破裂した動脈瘤については、脳血管内手術のほうが脳動脈瘤頸部クリッピング術よりもよい結果をもたらすといわれています。(5) ただし、未破裂脳動脈瘤での優劣は不明です。
 どのようなタイプの未破裂脳動脈瘤に対して脳血管内手術を行ったらよいかについての臨床研究が、現在積極的に行われています。


薬物療法はありません


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
積極的な治療を行うかどうかの評価は定まっていない
 脳ドックなどで、未破裂脳動脈瘤が見つかった場合にどうすべきか、治療の安全性との関係から、積極的に治療を行うかどうかについては、大多数の専門家が納得するような研究結果がいまだ得られておらず、判断が難しい場合が少なくありません。

大きさや形、場所などに応じて手術の適応が決まる
 一般的には、動脈瘤の大きさが直径7ミリ以上ある、血管壁の一部が脆弱(ぜいじゃく)なために動脈瘤がいびつな形をしている、経過観察をしたら以前と比べて大きくなっていた、手術が難しくない場所にある、などの条件を満たしている場合には、手術が勧められます。また、5~7ミリの場合は判断が分かれるところです。

直径5ミリメートル以下なら手術しないことも
 一方、直径5ミリ未満で、経過観察をしても大きさや形が変わらない場合には、あわてて手術を行わなくてもいいと思われます。

経過観察をする場合は、禁煙し、血圧を管理する
 外科的治療を行わず経過観察をする場合は、喫煙を避け、高血圧を治療するほうがよいでしょう。(1)

(1)日本脳卒中学会.未破裂脳動脈瘤の治療.脳卒中治療ガイドライン2009.2009. http://www.jsts.gr.jp/guideline/235_240.pdf
(2)UCAS Japan Investigators, Morita A, Kirino T, Hashi K, Aoki N, Fukuhara S,Hashimoto N, Nakayama T, Sakai M, Teramoto A, Tominari S, Yoshimoto T. Thenatural course of unruptured cerebral aneurysms in a Japanese cohort. N Engl JMed. 2012 Jun 28;366(26):2474-2482.
(3)Murayama Y, Takao H, Ishibashi T, Saguchi T, Ebara M, Yuki I, Arakawa H, Irie K, Urashima M, Molyneux AJ. Risk Analysis of Unruptured Intracranial Aneurysms:Prospective 10-Year Cohort Study. Stroke. 2016 Feb;47(2):365-371.
(4)Aoki N, Beck JR, Kitahara T, et al. Reanalysis of unruptured intracranial aneurysm management: effect of a new international study on the threshold probabilities. Med Decis Making. 2001;21:87-96.
(5)Li H, Pan R, Wang H, Rong X, Yin Z, Milgrom DP, Shi X, Tang Y, Peng Y.Clipping versus coiling for ruptured intracranial aneurysms: a systematic review and meta-analysis. Stroke. 2013 Jan;44(1):29-37.

出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「未破裂脳動脈瘤」の解説

未破裂脳動脈瘤
みはれつのうどうみゃくりゅう
Unruptured cerebral aneurysm
(脳・神経・筋の病気)

どんな病気か

 脳ドックなどでMRA(磁気共鳴(じききょうめい)血管撮影)を行った時に発見される病気です。自覚症状はまったくなく、診察をしても異常がないのが普通です。なかには眼の動きが悪くなって調べたら、未破裂脳動脈瘤であったという場合もあります。小さい脳動脈瘤を含めると、100人に2~3人はいるといわれています。

原因は何か

 脳の動脈の一部が内側からの圧力に耐えかねて、こぶのようにふくらんで起こります。脳の血管の先天的な弱さに、高血圧や血流の影響が加わって起こると考えられています。内頸(ないけい)動脈、脳底(のうてい)動脈、中大脳動脈、後大脳動脈など、あるいはそれらの動脈の分枝に起こります。

症状の現れ方

 普通はまったく症状がなく、たまたま検査で見つかります(図12)。動眼(どうがん)神経の近くの内頸動脈に起こると、動眼神経を圧迫して、片側の眼が外方以外には動かなくなり、瞳孔が大きくなり、対光反射がなく、まぶたが下がってくる眼瞼下垂(がんけんかすい)などの動眼神経麻痺の症状が起こることがあります。

検査と診断

 MRAなどで未破裂脳動脈瘤が疑われたら、三次元造影CT血管撮影で確認します。さらに脳血管撮影で動脈瘤の部位、形状を診断します。

 未破裂脳動脈瘤が自然に破裂してくも膜下出血を起こす確率は、大きさ、形などでも違いますが、平均して年に1%程度といわれています。たとえば62歳の男性に見つかった場合、平均余命が20年あるとすると、生涯でくも膜下出血を起こす可能性は20%ということです。

治療の方法

 日本脳ドック学会のガイドライン(2008)では、①余命が10~15年以上ある、②動脈瘤の大きさが5~7㎜以上、③動脈瘤の大きさが5~7㎜より小さい場合でも、症状のあるものや特定の部位にあるもの、一定の形態的特徴をもつもの、という条件がそろえば、手術をすすめています。

 頭蓋骨を切開し動脈瘤に直接アプローチする方法が通常ですが、血管内手術を行う場合もあります。また、治療をせずに半年後、1年後などにMRAで経過をみるというのもひとつの方法です。手術の危険性と、放置した場合のくも膜下出血発症の危険性を脳神経外科医と相談して、方針を決めることになります。

病気に気づいたらどうする

 信頼できる脳神経外科医と相談してください。医師の説明が納得できない場合には、診療情報提供書を書いてもらい、セカンドオピニオン(他の専門医の意見を聞くこと)のために他の専門医に診察してもらうこともできます。その場合に、検査データ資料(検査画像も含む)を借りて持参します。同じ検査をするのはむだなことです。

関連項目

 くも膜下出血

髙木 繁治


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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