本歌とは典拠となる古歌で、その一部を借用して趣向の複雑化、イメージ・情調の倍加を図る修辞法をいう。たとえば『新古今(しんこきん)集』の藤原定家(ていか)の秋歌「狭筵(さむしろ)や待つ夜の秋の風ふけて月を片敷く宇治の橋姫」の本歌は、『古今集』の恋歌「狭筵に衣(ころも)片敷き今宵(こよひ)もや我を待つらむ宇治の橋姫」である。古歌を取り込むことは『万葉集』以来の慣行であるが、院政期中ごろ、藤原清輔(きよすけ)の『奥義抄(おうぎしょう)』になると「古歌を盗(と)る」とよんで、格別の名歌や一般に歌の趣向を取ることは戒めている。その背景には当時の趣向中心の詠歌法があるが、鎌倉初期に至り趣向、すなわち着想のおもしろさよりも、ことばのもつイメージ・情調を重視して、その多彩な組合せを追究する方向に進む。そしてその有力な手法として奨励されたのが本歌取で、『新古今集』の一特色として著名であるが、やがて定家は『近代秀歌』『詠歌之大概(えいがのたいがい)』を著してこれに厳しい制限を加える一方、基本的な修辞法として確立した。その要点は、〔1〕本歌の字句はできるだけ置き場所を変えて借用し、字数は二句以上3、4字までとする。〔2〕本歌が四季の歌ならば、新作は恋・雑(ぞう)の歌というふうに主題を変え、また趣向を変えて取ることが望ましい。〔3〕格別な名句や同時代人の歌は避ける、などである。
[田中 裕]
有名な古歌の表現をとりいれて和歌を構成し,その古歌の世界を背景に表現・情趣の重層化や複雑化をはかる作歌技法。このような詠作法はすでに「古今集」にもみられるが,技法として発達するのは院政期からで,藤原俊成が意識的に実践し,これを継承して藤原定家は,余情妖艶のための創作技法として理論化した。定家の本歌取は,三代集や「伊勢物語」「源氏物語」などの古典を媒介とした,想像による詩情の世界の構築に特色がある。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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