本歌取(読み)ほんかどり

精選版 日本国語大辞典 「本歌取」の意味・読み・例文・類語

ほんか‐どり【本歌取】

  1. 〘 名詞 〙 和歌連歌などを作る際に、すぐれた古歌や詩の語句発想趣向などを意識的に取り入れる表現技巧。新古今集の時代に最も隆盛した。万葉集の「苦しくも降りくる雨か三輪が崎佐野のわたりに家もあらなくに」を本歌として、藤原定家が「駒とめて袖打払ふ蔭もなし佐野のわたりの雪の夕暮」と詠んだ類。
    1. [初出の実例]「第一に本歌どりの歌、即ち古人の字句をとるもの多くなれり」(出典:鎌倉室町時代文学史(1915)〈藤岡作太郎〉一)

本歌取の補助注記

中世の歌論書では、「本歌とす」「本歌をとる」「本歌にとる」などの形で見え、「本歌取り」という名称は後世のもの。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「本歌取」の意味・わかりやすい解説

本歌取
ほんかどり

本歌とは典拠となる古歌で、その一部を借用して趣向の複雑化、イメージ・情調の倍加を図る修辞法をいう。たとえば『新古今(しんこきん)集』の藤原定家(ていか)の秋歌「狭筵(さむしろ)や待つ夜の秋の風ふけて月を片敷く宇治の橋姫」の本歌は、『古今集』の恋歌「狭筵に衣(ころも)片敷き今宵(こよひ)もや我を待つらむ宇治の橋姫」である。古歌を取り込むことは『万葉集』以来の慣行であるが、院政期中ごろ、藤原清輔(きよすけ)の『奥義抄(おうぎしょう)』になると「古歌を盗(と)る」とよんで、格別の名歌や一般に歌の趣向を取ることは戒めている。その背景には当時の趣向中心の詠歌法があるが、鎌倉初期に至り趣向、すなわち着想のおもしろさよりも、ことばのもつイメージ・情調を重視して、その多彩な組合せを追究する方向に進む。そしてその有力な手法として奨励されたのが本歌取で、『新古今集』の一特色として著名であるが、やがて定家は『近代秀歌』『詠歌之大概(えいがのたいがい)』を著してこれに厳しい制限を加える一方、基本的な修辞法として確立した。その要点は、〔1〕本歌の字句はできるだけ置き場所を変えて借用し、字数は二句以上3、4字までとする。〔2〕本歌が四季の歌ならば、新作は恋・雑(ぞう)の歌というふうに主題を変え、また趣向を変えて取ることが望ましい。〔3〕格別な名句同時代人の歌は避ける、などである。

[田中 裕]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「本歌取」の解説

本歌取
ほんかどり

有名な古歌の表現をとりいれて和歌を構成し,その古歌の世界を背景に表現・情趣の重層化や複雑化をはかる作歌技法。このような詠作法はすでに「古今集」にもみられるが,技法として発達するのは院政期からで,藤原俊成が意識的に実践し,これを継承して藤原定家は,余情妖艶のための創作技法として理論化した。定家の本歌取は,三代集や「伊勢物語」「源氏物語」などの古典を媒介とした,想像による詩情の世界の構築に特色がある。

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

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