日本大百科全書(ニッポニカ) 「株式持ち合い」の意味・わかりやすい解説
株式持ち合い
かぶしきもちあい
cross holding of shares
企業が互いに、あるいは金融機関との間で、株式を保有しあうこと。実際には、単純な2社間の相互保有にとどまらず、複数の企業で循環的に保有するケースも多い(たとえば、A社がB社の株式を保有し、B社がC社の株式を保有し、C社がA社の株式を保有するような環状的仕組み)。その典型例の一つが旧財閥グループによる株式相互保有であり、日本的経営の特徴とされた企業集団化を促進してきた。また、銀行を中軸とした持ち合いは、メインバンク・システムを強める機能を果たしていた。
日本で株式持ち合いが進んだのは、長期的、安定的な取引関係の維持や自由化の進展に伴う外資からの乗っ取り防止策としての意味があり、持ち合い構造は1960年代以降に強化されていった。1980年代中葉からのバブル形成期には、大量のエクイティファイナンスの受け皿としても機能した。
こうした、株式からの利潤獲得(値上がり益や配当金の取得)を主目的としない株式保有は、政策投資とよばれる(政策投資により保有される株式は政策保有株式である)。つまり、持ち合い株主はサイレント株主(物言わぬ株主)であり、結果的に経営者支配を強めることになるから、企業中心の意思決定が可能になる。一方で政策投資における要求収益率は高くなく、少数株主や個人株主の利益軽視につながり、経営に対するチェックやガバナンス(統治)機能が損なわれる懸念が生じる。つまり、株主総会が形骸(けいがい)化し、資本や議決権の空洞化を招きかねないのである。さらには流通株式が減るというマイナス効果も生む。
かつて持ち合い株の株価上昇が、企業の含み益依存の経営体質を支える時期が続いたが、その後の長引く株価低迷で逆に経営の重荷になってきた。そこで、1990年代以降は資産効果を上げるために低利回りの株式を売り切って、持ち合い関係を解消する動きが広まった。しかしこのことが、2000年代初めに、株価が割安な優良企業に対して敵対的な買収攻勢をかけるといった投資ファンドなどの動きを内外から呼び込む一因になり、安定株主としての株式持ち合いを再評価する動きもみられた。
ただ政府は、持ち合い解消を進める目的で、2002年(平成14)に設立した銀行等保有株式取得機構を通じて金融機関の保有株買取りを進めている。さらに、2015年導入のコーポレートガバナンス・コードにより、株式持ち合いには合理的な理由が求められるなど、企業の財務戦略としての株式持ち合いは見直しを迫られている。
[高橋 元 2021年12月14日]
『丸山夏彦著『株式持合解消で強くなる企業と弱くなる企業』(2000・研修社)』▽『奥村宏著『株式相互持合いをどうするか』(2001・岩波ブックレット)』▽『吉村典久著『日本の企業統治――神話と実態』(2007・NTT出版)』