改訂新版 世界大百科事典 「核磁気モーメント」の意味・わかりやすい解説
核磁気モーメント (かくじきモーメント)
nuclear magnetic moment
原子核の磁気モーメント。ゼロと異なるスピンをもつ原子核はその状態によって決まる磁気(双極子)モーメントをもっている。これは原子核の構成要素である陽子と中性子がそれぞれ磁気モーメントをもち,また陽子の電荷が軌道運動をすることによって生ずる。その大きさは陽子の電荷をe,質量をmp,光速度をc,ħ=h/2π(hはプランク定数)として,eħ/2mpc=5.050824×10⁻24erg/ガウス(=5.050824×10⁻27J/T)で表される核磁子を単位に測られ,電子の場合のボーア磁子の1800分の1程度である。核の状態の構造(あるいは波動関数)がモーメントの大きさを強く左右しているため,基底状態のみならず,核異性体などの励起状態の核磁気モーメント測定も,核構造研究の目的で行われている。代表的な原子核模型である殻模型では,最高準位の陽子1個のみが核磁気モーメントの大きさにきくと仮定して計算したシュミット値が目安となるが,実際はより複雑な内殻偏極や,さらに厳密な議論には中間子効果も考慮する必要がある。核磁気モーメントが磁場Hのもとに置かれると核スピンIに応じて2I+1個のゼーマン準位が現れる。とくに電子系が核の位置に作る場でエネルギー準位に分離が生じ,超微細構造が光学スペクトル中に観測される。電子系のスピンがJであると,原子の全角運動量FはF=J+Iとなり,F=(I+J),(I+J-1),……,|I-J|の値をとる。磁気モーメントはまた核磁気共鳴やメスバウアー効果の基礎となっている。両者とも物性科学,化学などの分野で必要欠くべからざる研究手段である。核磁気モーメントの測定法としては上記の核磁気共鳴,メスバウアー効果によるもののほかに,基底状態に対しては原子線磁気共鳴法が有効である場合もあり,中性子の磁気モーメントもこの方法で求められた。励起状態の磁気モーメント測定には核反応による核整列を利用するβ線や,γ線の摂動角度分布法や,γ線同時計測による摂動角度相関法などが広く行われている。なお,磁気(双極子)モーメントと並んで原子核の電気四重極モーメントも,原子核構造や超微細相互作用を知るうえで重要なものである。
執筆者:山崎 敏光
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報