棒踊(読み)ぼうおどり

改訂新版 世界大百科事典 「棒踊」の意味・わかりやすい解説

棒踊 (ぼうおどり)

民俗芸能。棒を打ち合わせて踊る踊りで,鹿児島熊本宮崎沖縄,高知県などに分布する。豊年踊の一種として,また棒術の芸能化として,氏神の祭りや豊年祈願に行われることが多い。鹿児島県に最も多く,若者組が中心になって行う。そろいの着物に白鉢巻,白だすきをつけて2人一組に向かい合い,棒を激しく打ち合わせて踊る。所によっては棒の代り薙刀(なぎなた)や鎌,刀,尺八などを持って踊る。薩摩藩が郷民に武術奨励のために行わせたと伝えるが,棒を打ち合わせることによって悪霊を鎮め,豊作を祈り,村の安泰を祈る呪術として行われたと考えられる。沖縄の棒踊には武技的な〈組棒〉〈棒振り〉と,〈南島はえ)の島〉などと呼ばれる舞踊的なものがあり,八月踊とも呼ばれている。高知県香南市の旧香我美町山北の棒踊は,11月18日の浅上王子宮(あさがみおうじぐう)の例祭で行われる。未婚の青年20人が2組に分かれ,六尺棒を交互に打ちつけ合って踊る。棒術の流れをくむものという。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「棒踊」の意味・わかりやすい解説

棒踊
ぼうおどり

棒を持って踊る風流(ふりゅう)系の民俗芸能。普通には2人が一対、ときには3人が一組になり、数対で一組をつくる場合が多い。棒は六尺棒が一般的で、三尺棒が組み合わされることも珍しくないが、これを打組みに打ち合いながら踊る。棒踊の棒は基本的に神霊の依(よ)る聖なる用具の杖(つえ)と同じ呪具(じゅぐ)としての性格をもち、これを振ったり打ち合わせたりして悪霊を鎮めたり祓(はら)ったりするが、また武術の棒術との関連において、村落の青年の鍛錬と自衛の手段の意義を兼ね備えている。棒は薙刀(なぎなた)、槍(やり)、刀、鎌(かま)、花棒など種々のバラエティーをもつようになり、東北地方から沖縄までさまざまな姿形で散在している。たとえば、岩手県宮古(みやこ)市田老(たろう)の「七(なな)つ物(もん)」、埼玉県鴻巣(こうのす)市の「原馬室獅子舞(はらまむろししまい)」の棒、愛知県の「棒の手」、高知県の「太刀(たち)踊(花取(はなとり)踊)」、熊本県人吉(ひとよし)市の「大塚の棒踊」、沖縄県の「南の島(ふえーぬしま)」などである。規模の大きさ、芸能色の濃さでは南九州のものが典型的で、歌を伴い、4人対、6人対のものまでもあり、華麗である。

[西角井正大]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「棒踊」の意味・わかりやすい解説

棒踊
ぼうおどり

棒を打合せて踊る民俗芸能。鹿児島,熊本,宮崎の九州地方や沖縄に多く伝えられ,氏神の祭礼に豊年祈願などで踊られる。若者が隊列を組み,囃子に合せて,棒をさまざまに打合せて踊るが,この棒が,太刀,なぎなた,櫂,鎌などになるところもある。武技奨励の言い伝えのあるところもあるが,棒を打合せて悪霊をしずめようとする呪術の芸能化とみられる。

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百科事典マイペディア 「棒踊」の意味・わかりやすい解説

棒踊【ぼうおどり】

民俗芸能。主として若者が棒を使って踊る集団舞踊。鹿児島,熊本,宮崎などの諸県に分布。氏神祭,盆などに豊年祈願に行う例が多い。薙刀(なぎなた)や鎌・刀を持つ薙刀踊,鎌踊,刀踊などもある。元来は,棒を打ち合わせることにより悪霊を鎮送しようという呪術(じゅじゅつ)的機能もあったと思われる。

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世界大百科事典(旧版)内の棒踊の言及

【沖縄[県]】より

…また全域的にさまざまの祭りに登場する獅子舞も,遠くから来訪して災厄を払い豊穣をもたらすと信じられた神の芸で,シュロなどの繊維で編んだぬいぐるみの中に2人の踊手が入ってデイゴの獅子頭を振りまわしつつ豪快に踊る。その他祭りをにぎわす芸能で全域的に行われるものに棒術,棒踊の類があるが,棒術は真棒(まあぼう),組棒などといって,2人1組の男が三尺棒,六尺棒などを激しく打ち合わせるもの,棒踊はそれの舞踊化で,土地によって赤毛をかぶって曲技を演じたりする。これを南島(はえのしま)などというのは,南中国などから伝来したとの由来談があるからである。…

※「棒踊」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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