出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
単に榑ともいう。おもに上質のヒノキ大樹から割り出す材種であるが,榑木の用途,形態は必ずしも一様でない。791年(延暦10)当時の榑木は長さ1丈2尺,幅6寸,厚さ4寸と公定され,建築材としては壁柱に主用されたほか,公私交易の料にも供されたが,おいおい板ぶき屋根の住宅が普及するにしたがい,屋根板向き榑木の需要がさかんになる。そのような榑木の要求されるころには,それまでの乱伐によって畿内近国の山林の荒廃がはなはだしくなり,榑木の供給は中部地方の未開発林に期待するほかなかったので,中世末以降は木曾山,伊那山,飛驒山が榑木の主産地となった。中部産の榑木は通直な上ヒノキを伐倒し,その樹幹部を適当な長さに切断した後,これを蜜柑割り(放射状)に製材するので,木口は三方何寸,一方(腹)何寸と表示されるような梯形となる。この榑木を薄板にはいで屋根板に利用するが,当時の榑木がもっぱら上ヒノキから割り出されたのは,ヒノキの耐久性がよいことのほか,市価が最も高いので運賃負担力も高かったから,遠隔地から人馬の荷物として搬出しても十分引き合ったからである。
執筆者:所 三男
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