ピネン(読み)ぴねん(その他表記)pinene

デジタル大辞泉 「ピネン」の意味・読み・例文・類語

ピネン(pinene)

テルペンの一。多くの精油中に存在し、テレビン油主成分無色芳香があり、塗料の溶剤や合成樟脳しょうのう人工香料の原料にする。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「ピネン」の意味・読み・例文・類語

ピネン

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] pinene ) テルペン炭化水素の一つ。化学式は C10H16 天然に広く存在し、無色で芳香がある。テレビン油、松根油に存在。塗料の溶剤、合成樟脳、人工香料などに用いる。
    1. [初出の実例]「ピネンも噴きリモネンも吐き酸素もふく」(出典:春と修羅第二集〈宮沢賢治〉落葉松の方陣は(1924))

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ピネン」の意味・わかりやすい解説

ピネン
ぴねん
pinene

環状テルペン系炭化水素の代表的なもので、α(アルファ)-ピネンとβ(ベータ)-ピネンとがある。ピネンのα-体とβ-体の違いは二重結合の位置であって、α-体は1、6位、β-体は1、7位に二重結合がある。ピネンは多くの精油に含有されており、とくに松柏(しょうはく)科の精油であるテレビン油の主成分である。これを分留するとα-ピネンおよびβ-ピネンがともに得られるが、α-ピネンはβ-ピネンより圧倒的に多く得られる。しかし、テルペン系香料の合成原料としての価値は低かったので、多年にわたりα-ピネンをβ-ピネンに異性化させる努力がなされ、Glidden社(1965。現、Glidco社)、Farbwerke Hoechst社(1966)、L. Givaudane社(1967)によって異性化の技術が確立した。

 α-ピネンおよびβ-ピネンにはそれぞれ光学異性体であるd-体とl-体が存在する。α-ピネンは塗料および樹脂に多量に使用され、合成樟脳(しょうのう)、テルピネオール、ペリラルデヒドの合成原料として用いられる。また、α-ピネンをβ-ピネンに異性化する技術が確立されたので、β-ピネンを経てゲラニオールネロールリナロールシトロネロールシトラールシトロネラールが生産されるようになった。β-ピネンは各種テルペン系合成香料の出発原料として重要である。

[佐藤菊正]


ピネン(データノート)
ぴねんでーたのーと

ピネン
  (C10H16, 分子量 136.2)

α-ピネン

 融点  (液体)
 沸点  164~166℃
 比重  0.8740(測定温度15℃)
 屈折率 (n) 1.4739

β-ピネン

 融点  -62.2℃
 沸点  155~156℃
 比重  0.8584~0.8600(測定温度20℃)
 屈折率 1.4658

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

化学辞典 第2版 「ピネン」の解説

ピネン
ピネン
pinene

C10H16(136.24).二環性モノテルペン.天然にもっとも多く存在するテルペン系炭化水素の一つ.ほとんどの精油中に含まれている.テレビン油(58~65% のα-ピネンと30% のβ-ピネンを含む)から容易に得られる.北アメリカ産油のなかには(+)-α-ピネンが,ヨーロッパ産油のほとんどには(-)-α-ピネンが含まれる.】α-ピネン:2,6,6-trimethylbicyclo[3.1.1]hepta-2-ene.(+)-α-ピネン;融点-57 ℃,沸点156 ℃.+52.4°.0.859.1.466.有機溶媒に易溶,水に不溶.針葉樹様の香気をもつ.光学活性化合物の合成原料に用いられる.LD50 3700 mg/kg(ラット,経口).【】β-ピネン:6,6-dimethyl-2-methylene bicyclo[3.1.1]heptane.(+)-β-ピネン;沸点162~163 ℃.+22.4°.0.865.1.474.水素で飽和した白金黒で処理すると,β-ピネンは不可逆的にα-ピネンに異性化する.加熱異性化によりβ-ミルセンが得られるので,種々の香料に導かれる.また,単独あるいは共重合により,テルペン系樹脂が得られる.[CAS 7785-76-4:(-)-α-ピネン][CAS 18172-67-3:(-)-β-ピネン]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「ピネン」の意味・わかりやすい解説

ピネン
pinene



植物の精油中に広く存在し,とくにテレビン油の主成分をなす,パイン様の特有の香気をもつ無色の流動性のある液体。α-ピネンとβ-ピネンの異性体があり,天然には混合物として存在するが,一般にα-ピネンの含有量が多い(約60%)。またα-ピネンには右旋性(=+52°)と左旋性(=-51°)の光学異性体があり,アメリカ産ピネンは右旋性,ヨーロッパ産は左旋性である。比重0.86,沸点155~156℃。水に不溶,アルコール,油に可溶であり,ほとんどの香料と混和する。β-ピネンはノピネンnopineneとも呼ばれ,比重0.87,沸点164~166℃。水に不溶,アルコール,油に可溶。α-ピネン,β-ピネンとも酸によりカンフェンcampheneへ異性化し,酸化してショウノウ(カンファー)を得る。β-ピネンはまた塗料用・樹脂用溶剤,セッケン用香料として用いられる。近年ピネン化学と呼ばれる新しい香料工業の分野が開かれ,リナロール,ゲラニオール,シトラール,l-メントールなどのテルペン系合成香料がピネンから大規模に合成,生産されるようになった。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ピネン」の意味・わかりやすい解説

ピネン
pinene

化学式 C10H16 。モノテルペンの一種。3種の異性体が存在する。 (1) α-ピネン テレビン油の主成分で特異な臭いをもつ液体。光学異性体がある。D体は沸点 155~156℃,[α]D20=+51.13° 。L体は沸点 155~156℃,[α]D20=-51.28° 。どれもショウノウの合成原料や塗料溶剤として利用される。 DL体は沸点 155~156℃。 (2) β-ピネン α-ピネンと共存し,その性質がよく似ているために両者の分離は困難である。D体はセリ科植物の果実から分離抽出された。沸点 162~163℃。L体はテレビン油中に少量存在する。沸点 164℃,[α]D20=-22.1° 。 (3) δ-ピネン 天然には存在せず合成されたもので,d -シス体は沸点 159~161℃,l -トランス体は沸点 157~158℃である。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「ピネン」の意味・わかりやすい解説

ピネン

モノテルペン炭化水素の一つC1(/0)H16。α‐,β‐の2異性体があり,またそれぞれにd‐,l‐の光学異性体がある。α‐ピネン(沸点156℃)はテレビン油の主成分。植物精油中に広く存在する。β‐ピネン(沸点165℃)はα‐ピネンと共存するが量は少ない。いずれも特有のにおいのある無色の液体。α‐ピネンは塗料溶剤,合成樟脳(しょうのう)の原料として用いられる。(図)
→関連項目テルペン

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

栄養・生化学辞典 「ピネン」の解説

ピネン

 C10H16(mw136.24).

 d-α-ピネンとd-β-ピネンがある.テレピン油の成分.野菜,山菜など食用植物には香気成分としてピネンを含むものがある.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

今日のキーワード

仕事納

〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...

仕事納の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android