橋架け(読み)はしかけ(英語表記)crosslinking

改訂新版 世界大百科事典 「橋架け」の意味・わかりやすい解説

橋架け (はしかけ)
crosslinking

原子が線状に結合している分子相互間に橋を架けたような形の結合を形成すること。このような結合を橋架け結合あるいは架橋結合という。ポリエチレン,ポリ塩化ビニルナイロンなどの線状高分子には,加熱すると軟化流動化し,冷却すると再び硬化する性質があり,溶媒にも比較的溶けやすい。一方,橋架けにより高度に三次元網目構造を形成したフェノール樹脂尿素樹脂などは,加熱しても流動化せず,溶媒に対しても不溶となる。橋架けの程度があまり高くない場合には溶媒を吸収して膨潤する。また,化学結合が生成しなくても,長い高分子鎖相互にからみ合いが生ずる場合や,スチレンブタジエンのブロック共重合体のようにセグメントどうしが強い分子間力で凝集して橋架け結合に近い働きをする場合もある。橋架け結合を導入する方法としては,(1)放射線照射(放射線橋架け),(2)橋架け剤による化学反応,(3)重合反応過程における不飽和結合を2個以上もったモノマーや多官能性モノマーの混合(橋架け重合)が利用され,いずれも耐熱性,耐溶剤性,耐摩耗性などの改良による各種の用途が開かれている。

ポリエチレンは通常100~130℃で流動化するが,これに放射線を照射するとC-H結合が切断されてポリマーラジカルを生じ,再結合するときに橋架け結合を生成する。こうして三次元構造となったポリエチレンは300℃に加熱しても流動化しない。この方法を実用化したものとしては,電線の被覆材に電子線を照射し耐熱性の向上を図ったものが,飛行機,自動車,電話交換器などのケーブルに広く利用されている。このほか,発泡材や熱収縮材としても橋架け結合を導入したポリエチレンが用いられている。

C.グッドイヤーは,生ゴムと硫黄の混合物を加熱するとゴムの性質が改良されることを発見した。天然ゴムは線状ポリイソプレンであり,室温では軟らかく十分な弾性を発揮しない。そこで硫黄化合物を橋架け剤として使用し硫黄原子による-S-S-や-S-の橋架けをつくることにより,分子鎖相互の流動を防ぎ,引張強さや摩擦抵抗を増加させることができる。今日では硫黄以外にもゴム中に橋架けを生じるような物質は多く見いだされているが,ゴムの橋架けをとくに加硫と呼ぶことが多い。

不飽和結合を1個もったモノマーや,互いに反応しうる2個の官能基をもったモノマーの重合反応では線状高分子が生成するが,不飽和結合を2個以上もったモノマーや,互いに反応しうる3個以上の官能基をもったモノマーの重合反応では,橋架け構造を有する高分子が生成する。たとえば,不飽和結合を1個もつモノマーと2個もつモノマーとを混合して重合反応を行うと,ところどころに橋架けのある高分子が生成する(図1)。互いに反応しうる官能基AとBをそれぞれ3個および2個もつ化合物の間の反応では図2のようになる。

 橋架け重合にはその生成物の不溶性を利用する種々の用途がある。上に例をあげた橋架けポリスチレンはイオン交換樹脂の原料となる。水酸基を3個もつグリセリンとカルボキシル基を2個もつフタル酸の反応で得られるアルキド樹脂,フェノールとホルムアルデヒドの反応によるフェノール樹脂などは,反応の進行とともに生成物が不溶,不融となって硬化する熱硬化性樹脂として,成形材料に広く用いられている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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