幕末の開明派志士。福井藩士。名は綱紀(つなのり)、号は景岳、黎園(れいえん)。左内は通称。25石五人扶持(ぶち)奥外科医の長男。1848年(嘉永1)『啓発録』を著す。翌年大坂の緒方洪庵(おがたこうあん)塾に学び、1854年(安政1)江戸遊学、蘭学(らんがく)研究を続けるとともに英語、ドイツ語にも理解をもった。この間、藤田東湖(ふじたとうこ)、西郷隆盛(さいごうたかもり)らとも交渉し内外情勢への識見を深め、1855年藩医から御書院番に起用され、1857年藩校明道館学監となり、政教一致、経済有用の学を鼓吹し洋書習学所を設けるなど治績をあげた。同年江戸に呼ばれて藩主松平慶永(まつだいらよしなが)の侍読兼内用掛となり、一橋慶喜(ひとつばしよしのぶ)を擁する将軍継嗣(けいし)運動に携わった。彼は近い将来における国際連合的機構の出現を予想し、積極的に開国してロシアと攻守同盟を結び、外国貿易を盛んにして富国強兵を実現するとともに、英明の将軍のもと親藩、譜代(ふだい)、外様(とざま)にかかわらず有為の大名、藩士、浪人、学者、さては庶民層までも網羅した幕府規模における統一国家体制の樹立を考えていた。1858年上京して公家(くげ)に遊説、あわせて通商条約への勅許を勧めたが、紀州慶福(よしとみ)(家茂(いえもち))を推す井伊直弼(いいなおすけ)大老の出現により一橋派は敗北、安政(あんせい)の大獄で捕らえられ、翌年処刑された。彼は西洋学への深い理解をもったが、実用の学としてより以上の価値を認めることができなかった。また、軽輩の身分から抜擢(ばってき)し藩・国政の枢機へ参加させた慶永への誠忠の念強く、在獄中も終始主家へ災いの及ぶことを恐れた。
[山口宗之]
『景岳会編『橋本景岳全集』上下(1935・畝傍書房)』▽『山口宗之著『橋本左内』(1962・吉川弘文館)』
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幕末の志士。福井藩士。名は綱紀。号は景岳,黎園。左内は通称。藩医彦也(げんや)長綱の長男。藩儒吉田東篁に学び,15歳のとき自省の書《啓発録》を著す。翌年から2年余大坂緒方洪庵の適塾に遊学し,蘭学,西洋医術を習得。藩医相続の後1854年(安政1)江戸に赴いて杉田成卿(せいけい)らに学んで英語,ドイツ語をも読解可能に至る一方,藤田東湖らとも交わり政治に開眼した。57年藩校明道館学監となり,実学精神を鼓吹し洋書習学所をもうけるなどの治績をあげた。同年藩主松平慶永の命のもと将軍継嗣問題で一橋派のブレーンとなって江戸・京都間に活動,英明の将軍を頂点に親藩,譜代,外様の別なく有能の大名,藩士,浪士,庶民をさえ参加させる統一体制の樹立と,外国との間に統制貿易を活発に行うことによる富国強兵の実現を図った。安政の大獄がおこると一橋派の機関責任を負ったかたちで処刑された。《橋本景岳全集》上下2巻がある。
執筆者:山口 宗之
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(吉田昌彦)
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1834.3.11~59.10.7
幕末期の志士。福井藩医の長男。名は綱紀,通称左内,号は景岳。大坂の適々斎塾で医学を修得。藩命による江戸遊学中,西郷隆盛・藤田東湖らと交わる。福井藩藩政改革の中心として横井小楠(しょうなん)を招き,開国貿易・殖産興業・軍備強化などをめざした改革を行った。将軍徳川家定の継嗣問題では,藩主松平慶永(よしなが)の意をうけ一橋慶喜(よしのぶ)擁立のため活動した。そのため安政の大獄で慶永が処罰されるとともに謹慎処分をうけ,1859年(安政6)江戸で斬首された。
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… これに対して,伝統的な土着産業を基礎におき,絹業の育成に努めたのは福井藩である。まず姫路藩の河合寸翁と比較される指導者三岡八郎(のちの由利公正)の存在と,彼を支える横井小楠,さらにその師橋本左内に及ぶ活眼の人脈にふれておかなくてはなるまい。福井藩は表高32万石で,会津藩同様に三家に次ぐ家門の位置にたつ有力藩であった。…
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