高分子,すなわち巨大な分子からできている物質の用途は,繊維,プラスチック,ゴムなどのように,かなりの物理的な強度と化学的な安定性をもつ構造物(布,容器,タイヤなど)を形成するための材料としてのものが代表的である。しかし,このような構造形成の範囲に入らない機能が主となって用いられる高分子もあり,これを機能性高分子という。したがって,その機能については特定の定義があるわけではなく,多様なものを含んでいる。歴史も古く最も代表的なものとしてイオン交換樹脂があげられる。そのおもな機能はもとよりイオンの交換であるが,これが高分子の構造形成機能(この場合,水に不溶の小粒子)と結びついて初めて実用的なイオンの分離ができる。他の機能性高分子においても,その機能の発現は高分子の構造形成機能と結びついている。つぎに機能性高分子の例をあげる。
(1)高分子染料・顔料,高分子医薬・農薬,高分子安定剤 それぞれ相当する機能をもつ低分子物質を高分子に結合させたり包みこむことにより,その安定性を高めたり効果を持続させたりする。
(2)高分子触媒,固定化酵素 触媒や酵素,さらには微生物そのものを高分子に結合させることにより,これらを用いる反応の生成物の分離と触媒などの回収,再生を容易にする。
→高分子触媒
(3)イオン交換樹脂 イオンを交換する機能をもつ基を不溶性の高分子に結合させておくことにより,交換されたイオンをその高分子に結合,分離することができる。
→イオン交換樹脂
(4)感光性樹脂 たとえば,光に感じて不溶化する高分子からつくったフィルムにネガを通して光を照射すると,照射部と非照射部の溶解性の差を利用して画像を得ることができる。
→感光性樹脂
(5)分離機能膜 高分子物質は構造形成材料として膜をつくるのに適している。膜の両側に互いに隔てられた物質の間で移動が起こり,ある物質はその膜を通過でき他の物質は通過できない場合,その膜はそれらの物質の分離機能をもつことになる。実用化されている高分子膜の例に,海水の淡水化に使われる逆浸透膜(アセチルセルロース),廃水処理等に用いられる各種限外ろ(濾)過膜,人工腎臓用の透析膜(再生セルロース)がある。
(6)生体適合性高分子 人工血管,人工心臓弁,人工歯などのための医用高分子材料では,血液などの生体成分との相互作用,生体内での挙動について他の用途と異なる機能が求められる。
(7)電子機能性高分子 高分子の電気的性質を利用する用途もいろいろあり,絶縁性,誘電性材料としての用途が広いが,光導電性高分子,導電性高分子,圧電性高分子,焦電子高分子は電子写真,音響材料,検出器などに用いられる。
→導電性樹脂
機能性高分子は,生体高分子の機能との関連も深い。生体高分子である酵素タンパク質,核酸の機能には高分子の特徴が十分にあらわれているからであり,合成高分子において酵素,あるいは核酸の機能を発現させようとする基礎的研究も行われている
執筆者:井上 祥平
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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外部の刺激に対し,化学的,電気的,生体的な機能応答する材料の総称.これに対し,従来の機械的,物理的にすぐれた特性をもつ材料を高性能高分子という.機能性高分子の例として,イオン交換樹脂,高分子凝集材,高分子触媒,電気伝導性高分子,光伝導性高分子,エネルギー変換材料,高分子磁性材料,光記憶材料,生体適合性材料,生分解性材料など多くの高分子材料が開発されている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…熱硬化性樹脂となる高分子では,反応が起こって硬化する。 上に述べたような構造の形成以外の機能を主として利用する高分子を機能性高分子という。これには,イオン交換樹脂,感光性樹脂,分離用の膜,電気・電子材料など多様な用途がある。…
※「機能性高分子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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