感光性樹脂(読み)カンコウセイジュシ(英語表記)photosensitive plastics

デジタル大辞泉 「感光性樹脂」の意味・読み・例文・類語

かんこうせい‐じゅし〔カンクワウセイ‐〕【感光性樹脂】

光や放射線照射によって構造変化が起き、溶解性が変わったり電気伝導性が変わったりする高分子化合物

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「感光性樹脂」の意味・わかりやすい解説

感光性樹脂
かんこうせいじゅし
photosensitive plastics

機能性高分子の一つで、合成樹脂プラスチック)に、ある種の光感光性化合物を分散させて皮膜をつくり感光性を与えたもの。1980年代以降、その開発・利用がきわめて活発になっている。感光性樹脂は光の直進性と光による反応性を利用して画像を形成させるもので、光化学反応として光架橋、光分解、光重合などがある。その原理図Aのようである。

 図A中の感光性樹脂として、捺染(なっせん)工業ではテトロンの紗(しゃ)布(細かいネット状の織物)の上にポリビニルアルコール重クロム酸カリウムの水溶液を塗り付け、乾燥して感光膜とする。光の当たったところが水に不溶性となるので、現像液は水でよい。新しいものは図Bのようなポリビニルアルコール誘導体である。製造法として光二量型と光分解型の2種がある。前者はポリビニルアルコールをアルカリの存在でケイ皮酸クロリドと反応させてエステルの形にする。この図Bの(1)のエステルに紫外線を照射すると分子間で二量化反応で橋架けがおこり、(2)のようになり溶媒に不溶となる。光に対する感度はケイ皮酸(桂皮酸)が優れていて多くの高分子ケイ皮酸誘導体が使われている。

 光分解型は感光基が光によって分解し、これによって生じるラジカル(遊離基)の反応などを利用する。ポリビニルアルコールに(3)のような2個以上のジアゾ基をもつ化合物を混合して光を照射すると(4)のような橋架けがおこり、溶媒に不溶となる。もちろん光の当たらないところは可溶である。光重合型は光照射によって重合が開始されるモノマー(単量体)を用いるが、膜を形成させるためにポリビニルアルコールなどの高分子物質と混合して用いる。光重合性モノマーとしてトリエチレングリコールジメタクリレートのような架橋可能なものを用い、さらに増感剤としてアントラキノンなどを混合してある。

 用途は非常に広く、印刷版の作製、複写、グラフィックアートの分野、プリント配線集積回路などの電子産業分野、金属の精密加工などである。1980年代以降、無公害を目的として、光硬化型塗料や、接着剤、インキなどが研究されていて一部は実用化している。

垣内 弘]

『藁科達夫・甲斐常敏著『工業技術ライブラリー 感光性樹脂』(1972・日刊工業新聞社)』『徳丸克己・大河原信編『増感剤』(1987・講談社)』『山岡亜夫・森田浩著『感光性樹脂』(1988・共立出版)』『大勝靖一監修『高分子添加剤の開発技術』(1998・シーエムシー)』『化学工学会編『先端材料制御工学』(1999・槇書店)』『シーエムシー編・刊『高分子添加剤市場』1999年版(1999)』『赤松清監修『感光性樹脂の基礎と実用』(2001・シーエムシー)』『赤松清監修『感光性樹脂が身近になる本』(2002・シーエムシー)』『池田章彦・水野晶好著『初歩から学ぶ感光性樹脂――光で加工できるプラスチック』(2002・工業調査会)』


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改訂新版 世界大百科事典 「感光性樹脂」の意味・わかりやすい解説

感光性樹脂 (かんこうせいじゅし)
photosensitive resin

光の作用によって物理的または化学的な変化を起こす高分子物質の総称であるが,一般的には,光の作用により化学変化を起こし,その結果溶媒に対する溶解度または親和性に変化を生ずる高分子物質を指すことが多い。感光性樹脂は光の直進性と光による物質の変化を利用するものであり,画像形成に応用されることが多い。光による変化を現象面から分けると,溶解度の変化,親和性の変化,接着性の変化,気泡の発生,導電性の変化などとなる。これらの現象を利用して,印刷版の製造,プリント配線,ICなどのエレクトロニクス分野における回路作製や金属の精密加工などに用いられる。

組成的には,(1)感光基を有する高分子物質,(2)感光基を有する低分子と感光基を有しない高分子との混合物,の二つに大別される。また光反応の面からは,(1)光架橋型,(2)光分解型,(3)光重合型,に分けられる。

(1)光架橋型感光性樹脂 光架橋型の一つは光二量化系のものである。これはケイ皮酸類のようなα,β不飽和カルボニル基を高分子に導入したもので,ポリケイ皮酸ビニルがその代表的なものである。この樹脂に紫外線を照射すると,近接するケイ皮酸基の間で二量化が起こりシクロブタン環を生成し,橋架けにより高分子は溶媒に不溶となる。光架橋型のもう一つの例は金属イオンによる橋架けを利用するもので,水溶性高分子と重クロム酸塩の混合物がその代表的なものである。光架橋型感光性樹脂は,この化学反応と物性変化を利用して,シャドーマスクなどの精密加工,凹版(グラビア)版材作製に用いられている。

(2)光分解型感光性樹脂 ジアゾニウム塩,キノンジアジド,アジドのような光によって分解する化合物を含んだ高分子物質である。ジアゾニウム塩系感光性樹脂は,光分解によって起こる溶解度変化を利用してPS版(平版)や平凹版用版材の作製に利用されるほか,光分解により生成する窒素を利用して気泡写真にも応用されている。キノンジアジド系感光性樹脂は,光分解により可溶化する性質を利用するもので,平版用感光材やIC,LSI製造用フォトレジストとして広く用いられている。アジド系感光性樹脂は,光分解により活性なナイトレンを生成し,橋架け反応を起こして溶媒に不溶となる。このことを応用し,フォトレジストとしてIC製造などに広く利用されている。

(3)光重合型感光性樹脂 種々のタイプのものがあるが,基本的には不飽和ポリマーやビニルモノマーに光を照射して重合させる際に起こる物性(溶剤に対する溶解度)の変化を利用するものである。この型のものは,数mmの厚さの層を硬化させることができるので,樹脂凸版版材に応用されることが最も多い(樹脂そのものが版として用いられ,一般にこれを感光性樹脂版という)。このほか,画像形成を必要としない分野でも,作業性,無公害の見地から,紫外線硬化インキや紫外線硬化塗料にも応用されている。

 なお,物理的変化を起こす広義の感光性樹脂としては,光があたることにより導電性を生ずるものがあり,複写機用感光体などに応用されている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「感光性樹脂」の意味・わかりやすい解説

感光性樹脂
かんこうせいじゅし
photosensitive resin

光によって化学的または構造的な変化を生じる重合体。重合体自体が感光性をもたない場合でも,光増感剤などを混入して感光性をもたせた重合体も広義には感光性樹脂という。当初は写真製版におけるフォトレジスト (感光性耐食皮膜) として用いるために利用された。少い光によってできるだけ大きい溶解性の変化を示し,均一で強い薄膜を形成することが感光性樹脂に要求される性質である。溶解性の変化は,光による重合体間の架橋による不溶化によってもたらされる。ポリビニルアルコールのケイ皮酸エステルに少量の増感剤を添加したものは,イーストマン・コダック社で最初に開発された代表的な感光性樹脂である。近年用途が大きく広がり,金属の精密加工,プリント配線板,超 LSIなどの微細加工や光乾燥性塗料や光記録材料などに利用されている。

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栄養・生化学辞典 「感光性樹脂」の解説

感光性樹脂

 光によって重合,架橋する樹脂.

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