母子福祉寡婦福祉(読み)ぼしふくしかふふくし

改訂新版 世界大百科事典 「母子福祉寡婦福祉」の意味・わかりやすい解説

母子福祉・寡婦福祉 (ぼしふくしかふふくし)

母子家庭および寡婦に対し,その生活の安定と向上のために必要な措置を講じ,母子家庭および寡婦の福祉を図ることを目的とする施策。母子家庭や寡婦にあっては,母親みずからが生計の中心者であり,また子や家族の養育者であるという重い責任を担い,経済的にも社会的にも精神的にもきわめて不安定な状況におかれている場合が多い。そのため母子家庭の児童に対しては,心身ともに健やかに育成されるために必要な諸条件を整えると同時に,その母に対しても,健康で文化的な生活が保障されるように必要な援助がなされなければならない。また,寡婦に対しても,その扶養してきた母子家庭の子が成人した後も長年にわたって子を養育してきた影響を受け,健康,収入,就業などの面で恵まれていない場合が多いので,母子家庭の母に準じた生活が保障されなければならない。このような観点から,現行の施策は,基本法的立法である〈母子及び寡婦福祉法〉が中心となり,関連施策との有機的連携を保ちながら推進されている(1964年制定された〈母子福祉法〉は81年6月の法改正によって〈母子及び寡婦福祉法〉と改められた)。

 福祉の具体的措置としては,母子福祉資金の貸付けなどの経済的自立対策,母子相談員などによる母子家庭相談,母子福祉センターを中心とした生活指導や生業指導,さらに職場の開拓や住宅の確保などがある。とくに,母子福祉資金の貸付制度は母子福祉対策のなかで最も重要な地位を占めている。この制度は戦争犠牲者の家族に対する援護を主たる目的として1952年に発足したが,母子家庭に対して事業開始・継続,扶養児童の修学,技能習得など12種類の資金を低利または無利子で貸し付けることにより,母子家庭の経済的な安定と自立に寄与している。このほか,母子相談員および福祉事務所の相談業務,公共的施設内における売店等の優先許可,タバコ小売人の優先指定,国および地方公共団体の母子家庭の母などの雇用の促進に必要な措置を講ずる努力,母子家庭の母および児童の雇用に関する公共職業安定所の協力などの施策が行われている。母子福祉施設としては,各種の相談に応ずるとともに,生活指導および生業の指導を行う母子福祉センター,無料または低額な料金でリクリエーションその他休養のための便宜を供与する母子休養ホームがある。なお,寡婦(配偶者のない女子であって,かつて配偶者のない女子として児童を扶養していたことのあるもの)についても,寡婦福祉資金の貸付け,公共施設内における売店等の優先許可,母子福祉施設の利用など,母子家庭に準じた福祉の措置が講じられている。

 〈母子及び寡婦福祉法〉以外の法律による母子・寡婦福祉対策としては,(1)死別母子世帯に対し国民年金制度の母子年金・母子福祉年金,厚生年金制度の遺族年金などの支給,また生別母子世帯に対し児童扶養手当の支給,(2)生活保護における母子加算制度,(3)所得税,地方税における寡婦控除,(4)母子家庭介護人派遣事業,(5)母子寮の利用,(6)母子保健法による母性および乳幼児の健康の保持増進,(7)雇用対策として母子家庭の母および寡婦の雇用機会の拡大などが行われている。

 外国の例をみると,イギリスにおいては,母子福祉事業の始まりは母子の保健衛生,とくに妊婦および乳幼児の健康管理からであった。母子福祉における重要な問題としてはこのほか,未婚の母とその子どもの問題がある。

 スウェーデンでは,住居のない乳児と母親(おもに未婚の母)を収容する母子ホームがあり,また母子家庭で父親からの養育費支払が不履行の場合,児童福祉局が生活補助金を立て替える制度がある。アメリカでは,離婚,別居または未婚の母であることなどを理由とする母子世帯の貧困率(公式の貧乏線を下回る世帯割合)は上昇傾向を示しており,これら母子世帯に対しては公的扶助が行われている。
母子家庭・父子家庭
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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