民事信託(読み)ミンジシンタク(英語表記)private trust

デジタル大辞泉 「民事信託」の意味・読み・例文・類語

みんじ‐しんたく【民事信託】

受託者が、特定相手から、営利目的とせず、反復・継続することなく一度だけ引き受ける信託。家族間で財産管理移転等を行う家族信託など。→商事信託

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「民事信託」の意味・わかりやすい解説

民事信託
みんじしんたく
private trust
personal trust

営利目的ではなく、認知症対策や財産承継などのために利用する信託のこと。非営業信託ともいう。2007年(平成19)の改正信託法(平成18年法律第108号)施行で利用されるようになった。信託銀行や信託会社など信託のプロが営利目的で引き受ける信託を商事信託commercial trustとよび、この対語が民事信託である。家族、親族親友、会社などに託すことで、認知症・介護など老後への備え、財産の保全相続、中小企業の継承、空き家対策などに活用できる。相続や財産分与を事前に契約で決めておくため、相続争いを防止できる利点がある。中小企業の事業継承では、株式の分散防止などに活用できる。信頼できる親族に財産の管理・運用処分権を託す「家族信託」が代表例で、障害を抱える子の生涯資産管理を目的とする「福祉信託」なども含まれる。たとえば、親が介護施設に入所する場合、親(委託者・受益者)と子(受託者)が契約を結び、子は親の実家などの不動産を売って親の介護費を捻出(ねんしゅつ)し、残った売却代金を子が管理する信託契約専用の「信託口口座」に入れ、運用して親の生活費にあてる。不動産などの財産は親から子へ名義変更するが、財産権は親が保有し続けるため、贈与税や不動産取得税はかからない。

 財産管理・継承の手法には、民事信託のほか、遺言(いごん)や後見制度があるが、遺言は生前の財産管理に対応できず、後見制度も資産処分はできるが、資産活用・運用などは認められていない。このため民事信託は、財産の管理・運用・処分の自由度が高い手法といえ、少子高齢化が進む日本で利用が増えている。日本公証人連合会によると2018年に民事信託の公正証書作成件数は2223件に上った。

[矢野 武 2021年5月21日]

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