認知症や介護施設への入所などに備え、財産を管理・運用・処分する権利を、信頼できる家族に託す手法。家族や親しい人らに財産管理を任せる「民事信託」の一種であり、2007年(平成19)の改正信託法施行で、家族信託がしやすくなった。親の認知症や介護入所に備え、親(委託者・受益者)の介護費などを捻出(ねんしゅつ)・管理・運用するため、子(受託者)と契約を結ぶのが典型的事例である。子は親の実家などの不動産を売って親の介護費を捻出し、残った売却代金を子が管理する信託契約専用の「信託口(しんたくくち)口座」に入れ、運用して親の生活費にあてる。不動産などの財産は親から子へ名義変更するが、財産権は親が保有し続け、子は運用・管理などを任されるだけで財産権をもたない。したがって贈与税や不動産取得税も発生しない。受託者には遠縁の人や友人でもなれるが、大半が近親者である。財産を目的外に使わせず、家族全員の安心を確保するため、受託者を見張る信託監督人を置くこともできる。家族信託は、親の判断能力が衰える前に老後の生活費や介護費のめどをたてやすいうえ、相続や財産分与などについてあらかじめ契約で決めておける利点もある。
財産管理・継承の手法には、家族信託のほか、遺言や後見制度があるが、遺言は死亡するまで効力を発せず、生前の財産管理には対応できない。また後見制度は費用や労力面で後見人の負担が重く、資産処分はできるが資産運用などは認められていない。つまり家族信託は、財産の管理・運用・処分の自由度が高く、家族構成や事情に応じて実情に即した管理・継承ができる手法といえる。契約するには司法書士、行政書士、税理士、弁護士ら専門家と相談し、関係者が納得したうえで契約書をつくる。契約費は資産額の1%程度が目安。一度契約すれば報酬などの固定費は発生しない。家族信託制度の普及を図るため一般社団法人家族信託普及協会や一般社団法人民事信託推進センターなどがある。
[矢野 武 2018年6月19日]
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