離婚をした者の一方は,相手方に対して財産分与を請求できる(民法768条)。民法旧規定にはなく,戦後の改正によって新設された。英米法の〈アリモニーalimony〉にかなり類似しているが,アリモニーが再婚もしくは就職によって失権するなど,離婚後の扶養を趣旨としているのに対し,財産分与はそれに限られない点において異なる。なお,学説・判例ともに,内縁解消の場合にも,財産分与の規定が準用されるとの立場をとっている。
財産分与の法的性質については,学説上争いがあり,判例上も確立されていない。夫婦財産関係の清算を中核にするか,離婚後の経済的弱者の扶養を中核にするかのほかに,損害賠償をも含む,不利益全体の救済も含むなどの考えがある。家事調停の実務などでは,損害賠償関係は慰謝料として処理でき,また,前配偶者を離婚後も扶養するとの観念や習慣は日本では乏しいので,夫婦財産の清算を中心として処理されていることが多い。したがって,有責配偶者でも,財産分与請求権は失わない。
財産を分与すべきか否か,分与するとすればその額および方法をどうするかは,当事者が協議して決定すればよいが,協議ができないときは,離婚から2年以内に家庭裁判所へ処分を請求することができる(768条)。慰謝料の請求期限は3年(724条)であるから,この点も異なる。家庭裁判所は,当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して分与させるべきかどうか,および分与の額・方法を定める(768条3項)との規定はあるが,それ以上の法文はないので,具体的には,〈分与の対象〉と〈一切の事情〉とは何かが問題になる。
財産分与の対象財産は,原則として,婚姻中に夫婦が取得した全財産である。一方の名で得たものはその者の特有財産とされるが,知人からの贈与など明らかに他方配偶者の協力なくして得た財産を除けば,それ以外の財産は実質的に夫婦相互の協力によって取得した共有財産との性格をもつので,清算の対象となる。外勤の共働き夫婦の場合に,判例は共同生活のため支出した金銭の割合を寄与割合として算定している。家業での共働きの場合は,妻の協力は家事労働とは別個の経済的活動とみなされて,分与を得られる。夫が有職で妻が無職の主婦の場合には,妻が家事労働という労務出資をして組合的共有財産を形成していたと考える。ただし,その共有持分割合は,原則として2分の1であるが,寄与割合に応じて定まるとの考えがとられている。専業主婦についての判例では,その割合は5%から50%まで広い幅がある。〈一切の事情〉とは,婚姻期間,収支状況,協力態度,有責状況,今後の生活見通し,などをいう。分与は金銭で行われることがふつうであるが,土地・家屋や動産でもよく,一括払いが不可能な場合には,分割して支払ってもよい。
慰謝料は,相手方の責めに帰すべき原因でこうむった精神的苦痛を金銭で慰謝するものであるから,財産分与とは目的を異にする。訴訟手続としても,前者は地方裁判所で,後者は家庭裁判所で審理されるのが本来であるが,家庭裁判所での通常の離婚調停実務においては,〈慰謝料ならびに財産分与として〉とか,〈解決金として〉とかの名目で一括給付させる例が多い。
もっとも,財産分与関係の給付を実際に受けられる当事者は,家事調停でも56%(1995),協議離婚では18%(1979)にしかすぎない。そのほとんどが夫から妻への支払であって,妻から夫へは,調停離婚の場合でも8%(1995)しかない。いずれの場合も,その額はかなり低く,現実には,離婚後の妻の扶養という機能はほとんど果たしていない。
財産分与は経済的効果からみるとかなり贈与に近いが,法律上の贈与には当たらないので,原則として贈与税は課されない。ただし,分与財産の額が過当であると認められる場合の過当である部分は,贈与によって取得した財産として課税される(相続税法基本通達62条)とされている。
なお,一部の婦人団体は,〈財産分与〉という言葉は夫が恩恵的に妻に分け与えるという夫婦不平等の感じが強いので,〈財産分割〉という表現に改めることを要望している。
執筆者:湯沢 雍彦
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離婚をした者の一方が他方に対して財産を分与すること(民法768条)。当事者間の協議で財産分与の額・方法などを定めるのが原則であるが、協議が調わないとき、または協議をすることができないときは、家庭裁判所に申し出て、協議のかわりの処分をしてもらうことができる。ただし、これは離婚後2年以内にしなければならない。財産分与は、夫婦が結婚生活中にその協力によって得た財産の分配という性質を中心として、それに離婚後生活に困る配偶者の扶養という性質が付け加わるが、そのほか実際の財産分与にあたっては、離婚について有責の配偶者から他方への慰謝料の支払いという内容のものも含ませられることもあり、その取扱いはかならずしも一定していない。分与は、金銭で支払ってもよいし、また、不動産を分与するなどの現物の給付でもよい。金銭で支払う場合は、一括払いが原則であるが、分割払いも認められる。この制度は、第二次世界大戦後の民法改正の際に創設されたもので、離婚後の妻の生活を保障し、実質的に妻の離婚の自由を確保する役割を果たしている。
[高橋康之]
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(吉岡寛 弁護士 / 2007年)
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