デジタル大辞泉 「民族浄化」の意味・読み・例文・類語
みんぞく‐じょうか〔‐ジヤウクワ〕【民族浄化】
[補説]1990年代に旧ユーゴスラビアの内戦の中で生まれた語という。
民族的な混住地域において、一般的には多数派集団が少数派を抑圧して、単一かつ「純粋な」地域を確保する行為。1992年春から本格化するボスニア内戦の過程で、言語や外観を同じくするムスリム人、セルビア人、クロアチア人の3勢力による凄惨(せいさん)な戦いが展開されたため、欧米のジャーナリズムがこの用語を頻繁に使った。民族浄化の形態としては、同化、強制移住、あるいは大量虐殺がある。旧ユーゴの解体に伴い、それまでの共和国が民族自決を掲げて独立に奔走した。どの共和国も民族的に単一ではなく、民族自決とワンセットになった国民国家の形成は現実には困難な問題を引き起こした。新たな独立国において、少数者の権利は守られるのかといった問題である。この典型はクロアチアやボスニアの少数者セルビア人であり、セルビア人が自らの権利の擁護を求めて武装化した結果、「セルビア人問題」が生じた。これが、内戦を誘発した主たる要因の一つであった。とくに、民族混住の度合いが強いボスニアでは、独立後にムスリム、セルビア人、クロアチア人の3勢力がそれぞれ民族自決を掲げて、領域の拡大を競った。この過程で生じたのが民族浄化である。多様な人々が居住する都市部を「浄化」することは不可能であり、主として村部がその対象となった。内戦初期の段階では、非戦闘地域を中心として、3勢力の話し合いにより住民交換を行い、民族的な単一化を図るケースがみられたが、住民交換を強制力なしに実施することはできなかった。そのため、しだいに条例などによる強制退去が一般化した。戦闘地域では、民族主義的なさまざまな武装勢力が敵側勢力の村を破壊し、焼き払う場合が多かった。この過程で大量虐殺や集団レイプが行われた例もみられる。実態はいまだ闇(やみ)に包まれているが、ハーグの旧ユーゴ戦争犯罪国際法廷で起訴された戦犯の審議に伴い、民族浄化の科学的な解明がなされ、その実態が究明されつつある。
[柴 宜弘]
民族の混住地域で,一般的には多数民族が少数民族を抑圧,追放して,単一で「純粋な」地域を確保する行為。1992年3月から本格化したボスニア内戦で,言語や外観を同じくするムスリム,セルビア人,クロアチア人の3勢力が単一化を求めて凄惨な戦いを展開した。こうした行為は「強制収容所」の存在とともに,第二次世界大戦期のナチスによるホロコーストを思い起こさせたため,欧米のジャーナリズムが民族浄化の用語を頻繁に用いた。民族浄化の形態としては同化,強制移住,大量虐殺がある。ボスニアの戦闘地域では,民族主義的なさまざまな武装勢力が敵側勢力の村を破壊して焼き払う場合が多かった。この過程で大量殺害や集団レイプが行われた例もみられた。ハーグの旧ユーゴスラヴィア国際戦犯法廷で実態の究明が進められている。
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(坂本義和 東京大学名誉教授 / 中村研一 北海道大学教授 / 2007年)
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…これ以後,3者の領域拡大の戦闘が激化した。3民族が〈民族浄化〉と称される領域拡大政策を推進し,250万をこえる難民・避難民と20万の死者を出した。内戦は,セルビアの支援を受け軍事的に優位に立つセルビア人勢力が領域の70%,クロアチアの支援を受けるクロアチア人勢力が20%弱を支配下に置くなかで,ムスリム人勢力はアメリカやイスラム諸国の支援を受けたが劣勢であった。…
※「民族浄化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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