改訂新版 世界大百科事典 「水素吸蔵金属」の意味・わかりやすい解説
水素吸蔵金属 (すいそきゅうぞうきんぞく)
水素化物生成反応を水素の貯蔵,熱の貯蔵に利用する金属。炭素鋼の結晶中に侵入した水素が,鋼材の割れ破壊の重要な原因の一つとなることと関連して,金属と水素の反応は水素脆性(ぜいせい)の立場から広く研究されてきた。最近は水素化物生成反応を,二次エネルギーとして注目されている水素の貯蔵に使うとか,反応時の吸熱,発熱を熱の貯蔵に使うといったエネルギーシステムにおける利用の立場での研究が盛んになっている。
金属と水素の反応は大きく次の3種に分けられる。(1)水素が1価の陰イオンとして挙動する塩類似型水素化物 アルカリ金属水素化物(LiH,NaH,KHなど),アルカリ土類金属水素化物(MgH2,CaH2など)は発熱反応によって生成し,温度を定めると一定の水素解離圧を示す。高温にすると解離圧は上がる。(2)水素が金属元素的な挙動をする擬金属的水素化物 Ti,Zr,Pd,Ta,La,希土類元素などと水素は発熱反応によって金属間化合物的な水素化物をつくる。熱力学的には(1)のグループと同じように温度で定まる一定の解離圧を示す。一般に(1)のグループよりは解離温度は低い。(3)水素が固体金属結晶中に溶解した固溶体をなす金属状水素化物 Al,Fe,Ni,Cuなど汎用金属の多くは吸熱反応により水素を固溶する。吸熱反応であるから,化合物の場合と異なり,一定の水素圧力下では温度の上昇とともに水素溶解量が増加する。また一定温度下での平衡溶解量は水素圧力の関数となる。
水素化物を水素の貯蔵用に使う場合には,これまで調べられている純金属の水素化物では実用上の特性が不十分である。近年,(2)の金属間化合物型の元素と(3)の固溶体型の元素の合金のなかに実用上の特性を大幅に向上させるものが発見された。代表的な例はTiFe,LaNi5などである。TiFe合金を主体とする材料は室温近傍でも数気圧の解離圧を示すもので,材料の価格からみても実用化に近いが,水素吸蔵の反応が水素中の不純物(とくに酸素)の微量の存在で影響を受けやすく,表面活性化に困難がある。LaNi5を主体とする合金も常温で10気圧以上の解離圧を示す。Laの代りに希土類元素の混合合金であるミッシュメタルMmを使ったMmNi5でも十分な特性が得られる。
蓄熱技術用の合金としては,反応熱の大きな,したがって解離温度の高いMgなどの(1)のグループの金属を主体とする合金が考えられている。
執筆者:増子 昇
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報