化学辞典 第2版 「水素脆性」の解説
水素脆性
スイソゼイセイ
hydrogen brittleness
金属が水素を吸収して靭性を低下すること.鋼に多く見られ,水素が吸収される原因は次の二つに大別される.第一は,金属表面でのカソード反応によって生じた水素が金属中に拡散侵入するもので,酸洗,電解酸洗,電気めっき,腐食などの場合に起こり,それぞれ酸洗脆性,電解脆性,めっき脆性などともよばれる.H2S,ヒ素化合物などが存在すると起こりやすいが,普通,100~200 ℃ に30分~数時間加熱すると,水素は容易に金属外に脱出して靭性は回復する.第二は,溶融金属が雰囲気中の水分などを分解して生じた水素を吸収し,それが金属の凝固後も脱出しきれずに常温まで冷却されてしまう場合で,鋼のいわゆる白点,遅れ破壊,溶接時のビード下割れなどの現象を生じる.これらの場合は溶融金属中に水素を吸収させない注意が必要で,溶鋼の真空処理による脱ガスがきわめて有効である.なお,鋼材が高温・高圧水素に長時間さらされても脆化を生じるが,この場合は侵入した水素が鋼中の炭化物と反応してCH4を生成し,それによって鋼中に微小割れを発生させるもので,上記の水素脆性と異なり,いったん脆化すると回復不可能で,水素侵食(hydrogen attack)とよんで区別する.[別用語参照]真空冶金
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報