希土類磁石(読み)キドルイジシャク

デジタル大辞泉 「希土類磁石」の意味・読み・例文・類語

きどるい‐じしゃく【希土類磁石】

希土類元素主成分とする永久磁石の総称。ネオジム磁石サマリウムコバルト磁石プラセオジム磁石などがあり、磁力が強いものが多い。ハードディスクヘッドホン、各種小型電子機器などに用いられる。レアアース磁石

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化学辞典 第2版 「希土類磁石」の解説

希土類磁石
キドルイジシャク
rare-earth magnets

希土類元素と遷移金属元素の組合せを主成分とする合金または化合物からなる永久磁石.希土類元素の,他原子の影響を受けない内殻の4f電子のもつ磁気異方性と,遷移金属元素の3d電子の交換相互作用([別用語参照]強磁性)による自発磁化を利用して強い保磁力を得る強力な磁石.現在,実用的に重要なものは,サマリウム-コバルト磁石(通称,サマコバ磁石)とネオジム-鉄-ホウ素磁石(通称,ネオジム磁石)の2種類である.
(1)サマリウム-コバルト磁石.SmCo5とSm2Co17の二つのタイプがある.1960年代半ばにアメリカのK. Strnatらが,RCo5(R = 希土類元素)がきわめて高い磁気異方性をもつことを報告し,最初にアメリカの軍需会社がSmCo5実用磁石をつくった(1969年).1970年代半ばには日本メーカーも参加して,それまでの高性能磁石アルニコ([別用語参照]磁石鋼)の倍以上の最大磁気エネルギー積を実現するに至った.1976年にSm2(Co,Cu,Fe,Zr)17でさらに記録を伸ばし(エネルギー積240 kJ m-3),初代のウォークマンはこれを利用している.電池式腕時計のステッピングモーターにも使用された.Smは希土類元素中で存在度が低く高価で,Coも資源が偏在しているために供給が不安定で高価なため,より安価なネオジム磁石の出現によって使用分野が減少した.キュリー温度が高いため(Sm2(Co,Cu,Fe,Zr)17Tc = 800 ℃),耐熱性磁石として使用される.
(2)ネオジム磁石.Nd2Fe14B.1983年日本の佐川真人とアメリカのJ. Croatが同時に発表した,現在,最強力の永久磁石.Sm-Co磁石よりさらに強力(エネルギー積290 kJ m-3佐川)で,Ndは資源的にSmより豊富で安価である.佐川の製法は合金を粉砕して着磁した後,焼結して成型する.一方,Croat法は,合金をるつぼで融解してノズルから吹き出して急冷する(メルト・スピニング).Croat法は,低エネルギー積の樹脂ボンド磁石用粉末生産に利用されている.焼結製品は高速急冷製品より強力な磁石となり,製法の改善により,現在,最大磁気エネルギー積は474 kJ m-3(理論最大値512 kJ m-3)に達している.ネオジム磁石の弱点はキュリー温度が312 ℃ と低いことであるが,エネルギー積と価格を犠牲にすればFeをCoにかえて722 ℃ にすることができる.Ndの一部をジスプロシウムDyやテルビウムTbに置き換えれば,室温におけるエネルギー積は低くなるが,エネルギー積の負の温度勾配が穏やかになるので,最高作業温度を200 ℃ 程度にすることができる.ハイブリッド/電気自動車用の駆動モーター,発電機にこのタイプのものが採用されている.このほか,自動車には電動パワーステアリング用モーター,油圧系,燃料系,冷却水系電動ポンプ用モーターなど多数の機器に装備されている.薄型TV・小型スピーカー,携帯電話マイクロスピーカーなどや,パソコンHDDモーター,デジカメ各種機能,エアコン・冷蔵庫用コンプレッサモーター,産業用サーボモーターなど,小型化,低騒音化,省資源・省エネルギー化の目的にあらゆる分野で使用されている.需要も近年急増し,2007年には焼結タイプ60000 t,粉末タイプ5000 t で,そのうち,約90% が中国で生産されている.需要増につれて,原材料Nd,Dyの価格も主要産出国・中国の輸出抑制策もあって急騰している.資源の特定国依存度の高いこととあわせて,対策が急務となっている.
希土類磁石合金粉末は自然発火および着火危険性があるため,わが国では消防法第二類(可燃性固体)第一種危険物指定.また,その強力さのために,はさまれると骨折などの危険性があるとメーカーが警告している.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「希土類磁石」の意味・わかりやすい解説

希土類磁石
きどるいじしゃく
rare earth permanent magnet

希土類元素を含む強磁性材料で作った磁石で,アルニコ,フェライトに次ぐ第3の工学用磁石。希土類金属 (R) と鉄族遷移金属 (T) との間には,種々の金属間化合物が存在するが,その中で,R2T17,RT5化合物はキュリー点も高く,飽和磁化も大きく高い結晶磁気異方性をもっていることから,永久磁石材料として研究開発が進められてきた。希土類-コバルト磁石はサマリウム,セリウムなどの希土類とコバルトを組合せたもので,高価だが強力で高性能な磁石である。電子機器の小型高性能化に対応して用途が増えている。希土類磁石は高い磁性をもち,特に原料面,性能面,価格面で優位なネオジム鉄系のシェアが高まっている。新たな用途としては,MRI用の大型磁界発生装置などがある。

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知恵蔵 「希土類磁石」の解説

希土類磁石

希土類元素と鉄族元素の金属間化合物。従来の磁石とは桁違いの保磁力を持つ強力永久磁石。最初はサマリウム‐コバルト系化合物磁石が開発され、1983年にさらに強力な鉄‐ネオジム‐ボロン系磁石が日本で開発された。ネオジム磁石は資源的に有利で低価格。電子機器の小型高性能化や永久磁石型MRI(磁気共鳴断層撮影装置)が実現された。

(岡田益男 東北大学教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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