モンテスキューの主著。1748年刊。本書において、著者は「人間の間で受け入れられたあらゆる制度」の比較考察を通して、社会的事実の実証科学を創設しようとする。
あらゆる民族の社会と歴史は「事物の本性に由来する必然的関係」としての法(則)の帰結にほかならない。またすべての個々の法律は他の法律と結合して、より一般的な法に従属する。「一般に法とは、それが地上のすべての民族を支配する限り、人間の理性である」。個々の法はこの理性の特殊な適用でなくてはならず、さらに政体の本性と原理、国土の自然条件、民族の生活様式、宗教、性向、富、人口、風俗、習慣などと密接な関係をもたなくてはならない。これらの関係の総体が、いわゆる『法の精神』を形成する。
なかでも「法律がそれぞれの政体の本性および原理との間にもつ関係」が「法の精神」の基軸をなす。政体の本性とは「それに固有の構造」つまり権力の所在と行使である。後者は「それを動かす人間の情念」つまり共和制における「徳」、貴族制の「節制」、君主制の「名誉」、専制の「恐怖」である。国家の発展と滅亡の原因は、この政体の本性と原理との均衡と矛盾に求められる。他の諸要素は、「それらに由来する一般精神」を介して間接的に影響を及ぼす。したがって各政体はそれぞれに固有の基本法をもつはずであり、またある民族には適切な法律や制度も、他の民族にはほとんど無益である。このように本書は、モンテスキューが社会歴史法則としての「法の精神」に基づいて、多種多様な法律や制度に与えた客観的で多面的な評価と改革の指針との集成でもある。
[坂井昭宏]
『根岸国孝訳『世界の大思想16 法の精神』(1966・河出書房新社)』
モンテスキューの主著。全2巻,31編。1748年にジュネーブで出版。匿名であったが,著者がモンテスキューであることはすぐに知れわたり,その所論がイギリスの議会で引用されるなど,西欧諸国で注目を集めた。従来の観念的な法思想とは違って,初期の版についていた副題が示すように,〈法が各政体の構造,習俗,気候,宗教,商業などともつべき関係〉のうちに〈法の精神〉を求めようとするものであっただけに,本書の理解や評価は必ずしも一様ではなかったが,現代では法社会学的研究の先駆として高く評価されている。近代憲法の基本原理となった三権分立についての論述は,第11編第6章にある。日本では,1871年(明治4)の岩倉使節団に木戸孝允とともに随行した何礼之が,アメリカの法学者から〈経世済民ノ為メ大ニ裨益スル処アラン〉と薦められ,孟徳斯鳩著《万法精理》(1876)として邦訳した。
執筆者:上原 行雄
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モンテスキューの主著(1748年刊)。法の多様性を各国の風土,習俗,社会・政治的条件と関連づけ,また,共和政,君主政,専制政の三種の政体の原理を解明する。三権分立論など,大きな影響を残した。
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…ロックの権力分立論は,1689年の権利章典Bill of Rightsの採択によって総括されたイギリス市民革命の成果を,議会を本質的な担い手とする立法権の優位という定式化によって示すものであった。 モンテスキューの権力分立論は,《法の精神》(1748)の〈イギリス憲法論〉の章で展開されている。彼は1730年前後にイギリスに滞在し,当時まだ絶対王政下にあったフランスと対照的な,イギリスの自由な政治制度に強くひかれたという。…
… ロックの《人間知性論》は,人間の悟性的能力がすべて経験によって習得されたものであって,なんら生得的な能力によるものではないということを論証することを主題としたが,このことはまた,人間の社会生活における道徳的・実践的原理がなんらかのア・プリオリな超越的根拠から出てきたものでなく,人びとが経験を通じてお互いの利益になるように取り決めたものだという,《統治二論》の主題たる近代民主主義のテーゼとつながる。モンテスキューの《法の精神》は,この同じ問題を法思想・法制度の面から根拠づけた。両者はそれぞれ,近代における政治学と法律学を基礎づけるものとなった。…
…22年以後,モンテスキューは主としてパリで生活してランベール夫人などのサロンに出入りし,26年に高等法院の職を手放してからは文筆活動に専念する。アカデミー・フランセーズの会員に選出された28年から3年にわたってイギリスその他の諸国を遍歴,帰国後はラ・ブレードとパリの間をときに往復しながら,膨大な資料に基づいて《法の精神》(1748)の著述にとりかかった。その一部ともいえる《ローマ人盛衰原因論》(1734)の刊行からなお十数年を費やして《法の精神》を完成したときには,ほとんど視力を失っていた。…
※「法の精神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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