活性錯合体(読み)かっせいさくごうたい(その他表記)activated complex

改訂新版 世界大百科事典 「活性錯合体」の意味・わかりやすい解説

活性錯合体 (かっせいさくごうたい)
activated complex

化学反応進行につれて反応系が始状態から終状態に向かって原子配置を変えていく過程で,自由エネルギーの最も高い状態を遷移状態といい,その状態において反応系は活性錯合体をつくるという。遷移状態は反応の進行とともに変化する座標に対しては自由エネルギー極大点に相当するが,それ以外の方向の変位に対しては極小点となる(いわゆる鞍点)。したがって反応経路に沿う変化以外の並進,回転,振動などの運動は安定な分子と同様に規定できるので,寿命は非常に短いが,活性錯合体を一種の複合分子と考えることができる。多くの場合,活性錯合体は発熱反応では原系(始状態)に,吸熱反応では生成系(終状態)に近い。1931年アイリングH.Eyringは,原系の反応体と活性錯合体との間に近似的に平衡関係が成り立つと仮定して反応速度理論を提出した。これを遷移状態理論という。
反応速度
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「活性錯合体」の意味・わかりやすい解説

活性錯合体
かっせいさくごうたい
activated complex

化学反応は、反応の原系から出発し活性化状態(活性系、遷移状態)を経て生成系になると考え、この活性化状態で形成される化学種を活性錯合体という。活性錯体ともいう。可逆反応ならば、逆に生成系から原系への反応(逆反応)も進行し、その途中に正反応と同じ活性錯合体が形成される。一方、活性系は原系よりも活性化エネルギー分だけ系のエネルギーが高い。これらのことより活性錯合体は、この反応に関与するいくつかの原子からなり、原子どうしの組み替え(これが化学反応である)が、原系の方向へも、生成系の方向へも可能な活性化された状態にある錯合体ということができる。たとえば、水素ヨウ素とからなる原系からヨウ化水素(生成系)ができる反応では、次のような活性錯合体が考えられている。


この活性錯合体の構造や、その他の性質は、活性化エネルギーや活性化エントロピーなどの大きさから一部推定されるが、反応の遷移状態理論や絶対反応速度論では、これを、この錯合体に関与する原子間の相互作用の量子力学的計算により理論的に考察する。

[戸田源治郎・中原勝儼]

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百科事典マイペディア 「活性錯合体」の意味・わかりやすい解説

活性錯合体【かっせいさくごうたい】

活性複合体ともいう。化学反応においてもとの系が生成系に移る途中で,反応の活性化エネルギーによって高められた不安定な中間状態として仮定される反応分子などの複合体。1935年アイリング,ポラニらにより,反応速度についての理論から考えられた。

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世界大百科事典(旧版)内の活性錯合体の言及

【有機化学反応】より

…E,F,Gが高い反応性のためごく短寿命で,その結果単離はできないがその存在を証明しうる場合,これらは遷移状態transition statesと呼ばれる。遷移状態にある系を活性錯体activated complexという。反応の進行は,横軸に反応の進行,縦軸に反応系のエネルギーをプロットしたエネルギープロフィル図energy profile diagramで模式的に示される。…

【反応速度】より

…このことは,この反応が水素とヨウ素分子が原子状に解離し,それらが結合してヨウ化水素HI分子を形成するといった形で起こるわけではなく,もっとエネルギー的に楽な反応経路を通って進むことを示している。この反応経路で最もエネルギー的に高い状態にある反応系化学種を活性錯合体と呼ぶ。活性錯合体の構造の究明は,1925年に量子力学が確立され,化学結合のエネルギーが理論的に求められるようになって急速に進んだ。…

※「活性錯合体」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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