流す(読み)ナガス

デジタル大辞泉 「流す」の意味・読み・例文・類語

なが・す【流す】

[動サ五(四)]
液体が流れるようにする。
㋐水などを流れさせる。「汚水をどぶに―・す」「トイレの水を―・す」
㋑血・汗・涙などをしたたらせる。「脂汗を―・す」「よだれを―・す」
水流に乗せて他の物を運ばせる。「いかだを―・す」「台風で橋が―・される」
㋓付着物を水や湯などで洗い落とす。「背中を―・す」「シャワーで汗を―・す」
物を動かして移らせる。
空中に漂わせる。「異臭を―・す」
㋑流罪に処する。配流する。「罪人離れ島に―・す」
㋒次々にめぐらせる。「電流を―・す」「ムード音楽を―・す」
㋓広く伝わらせる。「デマを―・す」「情報を―・す」
㋔ひそかに売ったり渡したりする。「物資を闇に―・す」
物事が成立しないようにする。
㋐とりやめにする。中止する。「総会を―・す」「ゲームを―・す」
㋑わきにそらす。その事にこだわらないようにする。「論敵の攻撃を軽く―・す」「柳に風と聞き―・す」
㋒流産させる。「おなかの子を―・す」
㋓一定の期間が過ぎて質物の所有権を失う。「入質したカメラを―・す」
㋔力まないで気楽にする。「ウオーミングアップに一〇〇メートルを軽く―・す」
㋕野球で、流し打ちをする。「ライトに―・す」⇔引っ張る
客を求めてあちこち移り動く。「タクシー盛り場を―・す」「酒場ギターを弾いて―・す」
遊郭で居つづける。流連する。
「長く居なさんな、息子株ぢゃああるめえし、―・せばとっても程があらあな」〈滑・浮世床・初〉
[可能]ながせる
[下接句]汗を流す汗水を流す油を流したよう車軸を流すに働けばかどが立つ、じょうさおさせば流される水に流すよだれを流す
[類語]洗うゆすすす晒す洗い上げる洗い立てる洗い直す

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「流す」の意味・読み・例文・類語

なが・す【流】

  1. 〘 他動詞 サ行五(四) 〙
  2. [ 一 ] 液体が流れるようにする。
    1. 水などの液体を低い方へ移動させる。流れるようにする。
      1. [初出の実例]「松をのみときはと思ふに世とともにながす泉も緑なりけり〈紀貫之〉」(出典:拾遺和歌集(1005‐07頃か)賀・二九一)
    2. 特に、血、涙、汗などをしたたらせる。
      1. [初出の実例]「汗流(ながシ)(お)ぢ恐(かしこ)まる」(出典:続日本後紀‐嘉祥二年(849)三月二六日)
      2. 「翁、女、血の涙をながしてまどへどかひなし」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
    3. 人や物を、液体とともに移動させる。水によって運ばせる。また、流して失う。
      1. [初出の実例]「飛騨人の真木流(ながす)といふ丹生の川言(こと)は通へど船そ通はぬ」(出典:万葉集(8C後)七・一一七三)
      2. 「三百余騎、一騎もながさず、むかへの岸へざとわたす」(出典:平家物語(13C前)四)
    4. からだに湯や水をかけて洗う。垢(あか)を洗い落とす。
      1. [初出の実例]「家子仕はぬもたのもしき妻〈遠水〉 白き手に流す背(せなか)をかこつらん〈岩翁〉」(出典:俳諧・花摘(1690)下)
    5. ( 比喩的に ) 電気が流れるようにする。また、電波にのせて声や音楽などをひびかせる。「音楽を流す」
  3. [ 二 ] だんだんと移動させる。また、移動してもとの所へもどらないようにする。
    1. 広くゆきわたらせる。流布させる。
      1. [初出の実例]「なんぢらが君の使と名をながしつ」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
      2. 「情報をもう少し流して貰うように」(出典:春の城(1952)〈阿川弘之〉二)
    2. 杯などを、順にめぐらせる。
      1. [初出の実例]「流しつるけこのみわもり数添てさやたの早苗とりもやられず 顕注云 ながしつるとは、下臈は、酒もりをばながすと云なり。又曲水宴には盃を流して飲めば、うるはしき事にもながすといひつべし」(出典:散木集注(1183))
    3. 流罪に処する。
      1. [初出の実例]「守君大石を上毛野国に、坂合部薬を尾張国に流(ナカス)」(出典:日本書紀(720)斉明四年一一月(北野本訓))
    4. ( 自動詞的に用いて ) 遊里で、家に帰らないで遊び続ける。居続けする。
      1. [初出の実例]「それにかう流(ナガ)して居るなぞとは」(出典:洒落本・傾城買四十八手(1790)真の手)
    5. ( 自動詞的に用いて ) 芸人・タクシーなどが、客を求めてあちこち移動する。また、芸人などが往来で楽器の音を響かせる。
      1. [初出の実例]「おれが猿廻しで流さうぢゃアねえか」(出典:歌舞伎・紋尽五人男(1825)四幕)
    6. ( 自動詞的に用いて ) 特にこれといった目的なしに町中などを歩く。ぶらぶら行く。
      1. [初出の実例]「十月比の水鳥のやうに、あちらへながし、こちらへ歩行(ナガシ)」(出典:談義本・つれづれ睟か川(1783)二)
    7. 正規のやり方によらないで売り渡す。
      1. [初出の実例]「出来上ったプリントを地方の常設館に比較的安い値段で流した」(出典:蛙のこえ(1952)〈大宅壮一〉処女地)
  4. [ 三 ] 物事が不成立になるようにする。また、横にそれるようにする。
    1. 質物を受けもどさないうちに期限が切れて、その所有権を失う。
      1. [初出の実例]「かのせにをことしの十二月をすき候まてになしまいらせ候はすは、なかくなかしまいらせ候へし」(出典:高野山文書‐永仁七年(1299)四月二八日・ずいしゃう利銭借劵)
      2. 「其質は半年前に流した」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)長町の段)
    2. 心に留めないようにする。聞き流す。
      1. [初出の実例]「親の名残りも身のうさも、何のままよとながせども」(出典:浄瑠璃・源氏冷泉節(1710頃)上)
    3. 行くべき所へ行かなかったり、すべきことをなおざりにしたりする。
      1. [初出の実例]「新が会の時にゃ、おら行(いか)なんだ。すべて此ごろは、通り者が会をながす」(出典:洒落本・遊子方言(1770)発端)
    4. 他にそれるようにする。目的物に当たらないように相手の攻撃をはずしたり、視線を横にそらしたりする。
      1. [初出の実例]「たがひに、手なみの程を、見せんとて、うけつ、なかしつして」(出典:御伽草子・弁慶物語(室町時代小説集所収)(室町末))
    5. 流産させる。また、堕胎する。〔日葡辞書(1603‐04)〕
      1. [初出の実例]「子はをろさうか、ながさうか」(出典:浄瑠璃・栬狩剣本地(1714)三)
    6. 言いかけた謎に相手が答えることができないとき、その謎をとりさげる。また、謎を出題者にもどしてその心を解き示してもらう。
      1. [初出の実例]「挑灯にはや釣鐘の夜か更る なかすかとくか謎の事わけ」(出典:俳諧・西鶴大矢数(1681)第二)
    7. 全力を出さないで、手を抜いたり、らくなやり方にしたりする。「終わりの五〇メートルをながす」
      1. [初出の実例]「ながすとは、手抜きすること」(出典:新撰大阪詞大全(1841))
    8. 野球で、ながし打ちをする。「ライトへながす」

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