洒落本。田舎老人多田爺(いなかろうじんただのじじい)作。1770年(明和7)刊。1冊。書名は漢籍《揚子(ようし)方言》のもじり。作者は大坂下りの書肆丹波屋利兵衛といわれる。通人とうぬぼれている半可通の男が,うぶな商家のむすこをつれて吉原遊郭に遊び,途中の船宿や船中,茶屋などでさかんに通人ぶりを示そうとするが,しだいに化けの皮をあらわし,遊女屋でも女郎に冷遇される。一方むすこは大いにもてるという筋。会話を主とする文体で,人物の服装,言語,動作などを細かく描きつつ,類型的ではあるがその性格を表現し,おのずからに生ずるこっけい感を盛り上げた小説的構成を確立しており,また〈通〉という理念を洒落本に定着させた画期的な作品である。
執筆者:水野 稔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
洒落本(しゃれぼん)。小本(こほん)1冊。1770年(明和7)ごろ江戸刊。作者田舎(いなか)老人多田爺(ただのじじい)の正体は『莘野茗談(しんやめいだん)』(平秩東作(へつつとうさく)著)にいう丹波(たんば)屋利兵衛か。丹波屋は大坂の本屋だったが、1761年(宝暦11)以後江戸で文林堂として活躍した。内容は通人ぶった男がその通を示してやろうと、うぶな息子を連れて吉原に遊んだのはいいが、結局半可通を暴露して嫌われ、かえって息子がもてるというもの。写実と滑稽(こっけい)を基とする短編遊里小説という洒落本の定型を確立。洒落本評判記『戯作評判花折紙(けさくひょうばんはなのおりかみ)』(1802)に「小書(こがき)いしやうつけの開山」と称された。
[中野三敏]
『中村幸彦著『遊子方言評釈』(『鑑賞日本古典文学34 洒落本・黄表紙・滑稽本』所収・1978・角川書店)』
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