ポンプ羽根車とタービン羽根車とを主要な構成要素とする流体式のクラッチ。図1のようにポンプ羽根車は入力軸(原動機)に,タービン羽根車は出力軸(負荷)に結合される。液体(一般に鉱油)を入れてポンプ羽根車を回すと,羽根車からトルクを与えられた液体はタービン羽根車に流入し,それにトルクを与えてポンプ羽根車に戻る。このように液体を介してエネルギーの伝達が行われる。その特性は,二つの羽根車のみで構成されているため,原理的に両羽根車のトルクは等しく,クラッチの機能を示すことにある。すなわち,入力軸と出力軸のトルクは等しく,エネルギー損失に相当する分だけ,出力軸回転数が減少する。これは,トルク変換のできるトルクコンバーターと基本的に相違する点である。
いま,入力軸回転数をn1,出力軸回転数をn2,速度比をe=n2/n1,入力軸トルクをT1,出力軸トルクをT2,トルク比をt=T2/T1,効率をη=T2n2/T1n1とするとき,
t=1,η=e=1-(n1-n2)/n1
となる。ここに,(n1-n2)/n1はすべりといい,正規の運転状態ではこれが数%となるよう設計する。設計点の近くではトルクT(=T1=T2)はn12D5に比例する(Dは羽根車外径)。図2はn1を一定にしたときの速度比と効率およびトルクの関係を示したものであるが,e=0の近くでは設計点の10倍以上のトルクとなり,運転上の支障となるため,実機ではその低減に貯油槽を設けるなど種々のくふうがなされる。とくに液量を自由に調節できる構造としたものは,速度比の広い範囲でなめらかな運転が可能で,変速用流体継手とも呼ばれる。
流体継手を用いるエネルギー伝達では,始動が容易となる,過大な負荷に対して原動機を保護できる,衝撃の吸収能力があるため円滑な運転ができるなどの特徴がある。このため,ポンプ,送風機,ベルトコンベヤ,自動車や建設・鉱山・産業の諸機械の駆動に用いられる。
執筆者:山口 惇
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ターボ型ポンプ羽根車とタービン羽根車を主構成要素とし、液体(一般に油)を作動媒体として一つの軸から他の軸へ動力を伝達する装置。流体クラッチともいう。原動機により駆動されてポンプ羽根車が回転すると、液体は遠心力によって押し出され、循環運動を行う。ポンプ羽根車内でトルク(回転力)を与えられて角運動量を増した液体は、タービン羽根車に入って角運動量を減少させ、トルクを与えてこれを回転させたのち、ふたたびポンプ羽根車に戻る。原理的にポンプ羽根車の与えるトルクとタービン羽根車の受け取るトルクとは等しく、トルクの変換は行われない。
流体継手を歯車式変速装置と組み合わせると、発進時や加速時の衝撃や騒音が減少し、円滑な動力の伝達が可能となるため、自動車や船舶などの動力伝達に応用されている。
[池尾 茂]
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