日本大百科全書(ニッポニカ) 「浮引網」の意味・わかりやすい解説
浮引網
うきひきあみ
floating towing net
漁業の網漁具のうち、引網類の一種。海底以外の表層・中層において、網を引き揚げて行う漁法および漁具をいう。一般に使用する漁具は、中心となる袋網とその両端の翼部を構成する袖網(そであみ)と荒手網および2本の引綱からなる。船を用いる船引網と船を用いない地引網とに分かれる。引寄せ網と引回し網という二つの操作手法があり、引寄せ網とは船を一定の場所に錨(びょう)留めして漁具を船まで引き寄せて漁獲するものであり、引回し網とは船を動かし漁具を移動させて漁獲するものである。1艘(そう)で操業するものと2艘で操業するものとがあるが、操業方法は各地でそれぞれ創意工夫され、独特の方法で行われている。なお、船引網の引回し網(引回し船引網)のことをパッチ網ともいう。
漁法分類として広義の意味では、海底を引網して底生生物を漁獲する底引網も船引網の範疇(はんちゅう)に入るが、中層・表層を遊泳する浮き魚類を対象とする船引網である浮引網とは制度上は分離している。日本近海における浮引網は主としてカタクチイワシ、イカナゴ、アジ、サバ、サヨリなど小形の浮き魚類を漁獲対象としているものが多いが、ロシアなどではサバ、サンマ、スルメイカなどを対象とした中層トロール漁業などが行われている。
日本の浮引網漁の代表的な例を以下に紹介する。千葉県旭(あさひ)市飯岡地方のシラウオ船引網は、漁船は1隻で2~3トン、2~3人乗り、使用される漁具は、袋網(網口の高さ4.5メートル、全長約11.5メートル)、袖網(各袖全長45メートル、目合い4.5~5.0センチメートル)、引綱(各径10~12ミリメートル、長さ75メートル)で、袖端には手木(てぎ)(杉丸太で高さ4.5センチメートル)が取り付けられている。漁場では、まず錨留めした浮標浮子(あば)を投入し、ついで引綱、袖網、袋網の順に、魚群を包囲するため大きく回りながら投入し、さらに反対側の袖網、引綱の順に投下しながら最終的に最初に投入した浮標浮子を船内に取り込む。錨綱(いかりづな)を船の中央部に固定した後、ウィンチで引綱から順に船内に取り込む。操業1回約15~20分、1日操業回数約30~40回、漁期は周年(盛漁期3~4月)、漁獲物はシラウオ(成魚体長約10センチメートル、新仔(しんこ)1.5~2.0センチメートル)、漁場水深3~4メートル程度の浅所(ただし冬季はやや沖合、春~夏季は岸寄り)。
ほかに、愛知県三河湾のパッチ網、瀬戸内海のカタクチイワシ船引網、鹿児島県のトビウオ浮引網、九州のイワシ船引網、茨城県のシラス引網などが有名である。
[添田秀男]