日本大百科全書(ニッポニカ) 「海洋科学」の意味・わかりやすい解説
海洋科学
かいようかがく
ocean sciences
海洋の自然現象に関する学問、研究、調査の包括的総称。「地球科学」等に対応する。「地球科学」と同じように比較的近年に使われだしたことばで、「海洋学」とほとんど同義語であるが、語感としてはこれよりやや広い。
海洋学 oceanography, oceanology(英語)、océanographie(フランス語)、Meereskunde, Ozeanographie(ドイツ語)、океанолбоия(ロシア語)という用語は以前から使われている。このうち oceanology は東欧圏でよく使われる。海洋物理学、海洋化学、海洋生物学、海洋気象学、海洋地質学等に分かれており、また海洋工学も海洋科学、海洋学に密接した工学の一部門である。海洋科学も、他の諸科学と同じように、気象学や地球物理学、地磁気学、地震学などとの学際的研究が最近盛んで、学問の境界をつけにくくなっているのは注意すべきである。
(1)海洋物理学 physical oceanography 海水の運動、物性など海洋の物理的諸現象を研究する。気象学、地震学、測地学などとともに地球物理学の一分野でもある。実際には海流、潮汐(ちょうせき)、潮流、波浪、高潮など海洋力学の問題、水塊の分析・混合、海況の変動など主として熱的の問題、海中の光度、密度、比熱、海氷などの物性の問題なども含み、内容はきわめて多岐である。
(2)海洋化学 chemical oceanography 海水の化学的性質、すなわち塩分、溶存酸素、栄養塩、海水中に存在する物質、ガス、放射能などを研究する分野。
(3)海洋生物学 marine biology 海水中(底生のものも含む)にある動物・植物など海洋生物の記載、分類、挙動などに関する学問。海洋学が誕生する契機となった点は忘れることができない。プランクトンを対象にする研究部門をとくにプランクトン学、浮遊生物学planktologyともいう。
(4)海洋気象学 marine meteorology 海上における種々の気象・気候現象の理論的・実際的研究をする学問。気象学の一部門でもある。海上の台風、低気圧の発生・発達・消滅、海上風の構造、海洋と大気間の熱やエネルギー交換現象、テレコネクションなど対象は広い。海洋気象学がどちらかというと理論的立場をとるのに対し、海上気象学maritime meteorologyは、船舶の運航に結び付いた海上諸現象、気象要素の統計、最適航路の選定など実際面の研究が主である。
(5)海洋地質学 marine geology, submarine geology 海洋底の地質を対象にする学問で、陸地を対象にした地質学と同じように海底堆積(たいせき)学、海底層序学、海底地形学、海底構造地質学などに分けられる。このうち近年の海洋底拡大説、プレートテクトニクスの発展に伴い、海底構造地質学は海洋地球物理学marine geophysicsとしてその内容対象を充実しつつある。
海洋学の応用・活用部門で工学の範囲に入るものに海洋工学がある。
(6)海洋工学 ocean engineering 海洋諸科学の知識・知見を応用して、海中の構造物、機器などの計画、設計、施工、管理にあたる学問、技術。たとえば、石油掘削リグ、潜水調査船の建造技術などがこれにあたる。海洋工学の対象は広いが、海岸工学、海中工学の分科もある。いずれにせよ海洋科学の知見と、電気、電子、土木、建築、造船、機械、計測などの諸工学分野、さらには海中医学など関連諸科学との密接な結び付きにより成立、発展している工学の大きな分野の一つである。
[半澤正男]
『『海洋科学基礎講座』全13巻(1970~1978・東海大学出版会)』▽『『海洋学講座』全15巻(1972~1976・東京大学出版会)』