海綿(読み)かいめん

精選版 日本国語大辞典 「海綿」の意味・読み・例文・類語

かい‐めん【海綿】

〘名〙
海綿動物の総称。
※尋常小学読本(1887)〈文部省〉六「海綿は、もと海底に生ずるものにして、世の人始めは、みな植物なりと思ひしが、近き頃に至りて、其動物なることを知れり」
モクヨクカイメンの繊維状の骨格を乾燥した製品。やわらかで弾力があり、よく水分を吸収するので、洗浄・化粧・医療・事務用などにされる。スポンジ。うみわた。〔重訂解体新書(1798)〕
西国立志編(1870‐71)〈中村正直訳〉四「常に疲れ極まりて気絶し、衣を解かれ、海綿を以て身体を拭(のご)はれて、再び蘇醒せしと云へり」

うみ‐わた【海綿】

〘名〙 (「海綿」の訓読み) 「かいめん(海綿)」の異名
※引照新約全書(1880)馬太伝福音書「走り往て海絨(ウミワタ)をとり醋を含せ之を葦につけてイエスに飲しむ」

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デジタル大辞泉 「海綿」の意味・読み・例文・類語

かい‐めん【海綿】

海綿動物の総称。
モクヨクカイメンの繊維状の骨格。網状で黄色く、弾力性に富み、水分をよく吸収する。化粧用・事務用などに用いる。スポンジ。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「海綿」の意味・わかりやすい解説

海綿
かいめん

海綿動物門に属する水生動物の総称。多細胞動物のうちではもっとも下等な体制をした動物で、神経も筋肉も分化していない。襟細胞(えりさいぼう)室という養分を摂取する独特な器官を有することが特徴である。海綿動物は、原生動物から腔腸(こうちょう)動物へ進化する過程でわき道へそれた動物群と考えられ、側生動物とよばれることがある。しかし、海綿動物の発生を研究する学者のなかには、原生動物から腔腸動物への進化の途中の段階にある動物群と主張する人もいる。海綿類の大部分は海産で、一部が淡水産(淡水海綿)である。海綿類はすべて固着性(岩の上などに着生する)で見かけ上静止しているので、リンネは『自然の体系』(1735)の初版で「海綿は海あるいは流水中に産する花も実も知られない植物である」とコケの仲間に入れていた。海綿類を最初に動物と認識したのはイギリスの動物学者エリスJ. Ellisである。化石の海綿は古生代カンブリア紀から知られているが、先カンブリア時代には現生の主要な海綿類の分化はだいたい終わっていたと考えられる。

 現生の海綿類は日本近海で約1000種が知られているが、研究はまだ十分とはいえない。海岸や池、川などでよくみかける海綿は尋常海綿というグループに入る。また、海藻上やカキ養殖の筏(いかだ)などに付着している小さな壺(つぼ)状の海綿をみることもあるが、これらは石灰海綿の仲間である。深海には、個体性が明瞭(めいりょう)な大形の六放海綿が生息している。海岸付近あるいは浅海に生息する尋常海綿のなかには美しい色彩をしたものも多いが、石灰海綿や六放海綿ではほとんどが白色か灰色である。淡水海綿のなかには、緑藻類と共生して美しい緑色を呈するものもある。

[星野孝治]

体の構造

体の構造は、小孔(入水孔)→流入系→襟細胞室→流出系→中腔→大孔(出水孔)からなる流水系と、体を支持する骨格および数種の細胞群で構成されている。しかし、石灰海綿にみられるように単純な流水系を有するものでは、流入系、流出系、中腔がないこともある。また海綿の種類が高等になるほど、流水系も複雑になる。この流水系を水が通過する間に、襟細胞によって水中の微生物をとらえ、これを消化して栄養とする。流水系の仕組みは大きく分けて、アスコン型サイコン型(シコン型)、ロイコン型(リューコン型)の3型がある。アスコン型は流水系がもっとも簡単な型式で、中腔が大きな襟細胞室となっており、石灰海綿のなかでも下等なアミツボカイメンなどが含まれる。サイコン型は中腔壁のひだの内側に襟細胞が発達する型で、石灰海綿のうちのオカダケツボカイメンなどが含まれる。ロイコン型は襟細胞室がもっとも高度に発達する型で、石灰海綿のなかでも高等な種類がこれに属し、流水系をもつ。もともと流水系の型は石灰海綿類についていわれたもので、尋常海綿類、六放海綿類ではさらに複雑な流水系を発達させている。

 海綿類には襟細胞のほかに、始原細胞、表皮細胞、造骨細胞などがある。始原細胞は海綿の体の中に多数存在し、襟細胞、表皮細胞、造骨細胞、生殖細胞など、どんな種類の細胞にも分化する能力をもつといわれている。造骨細胞は海綿の支持組織となる骨格を構成する骨片をつくる。

[星野孝治]

分類

海綿動物門の分類には、骨片の性質がもっとも重要であり、それによって次の4綱に分けられる。

(1)石灰海綿綱 石灰質の骨片をもつのが特徴で、カゴアミカイメンLeucosolenia laxa、オカダケツボカイメンSycon okadaiなどが含まれる。

(2)六放海綿綱 ケイ酸質の骨片を有するもののうち、基本型が三放体(互いに直交する3軸をもつ)と考えられる骨片をもつのが特徴で、ホッスガイHyalonema sieboldi、ヤマトカイロウドウケツEuplectella imperialisなどが含まれる。ほとんどの種類が深海産である。

(3)尋常海綿綱 ケイ酸質の骨片を有するもののうちから六放海綿を除いたもので、基本型が四放体と考えられる骨片をもち、微小骨片としてシグマ体や星状体をもつものもある。骨片がまったく存在せず、そのかわり海綿質の繊維がよく発達することもある。ザラカイメンCallyspongia confoederata、ワタトリカイメンC. elegans、ツノマタカイメンRaspailia hirsuta、モクヨクカイメンSpongia officinalis、ムラサキカイメンHaliclona permollis、ダイダイイソカイメンHalichondria japonicaなどが含まれる。

(4)硬骨海綿綱 石灰質の基盤とケイ酸質の骨片をもつのが特徴で、日本近海産の種類はまだ研究がなされていない。サンゴ礁に生息する。

[星野孝治]

生殖

海綿動物の生殖には、有性生殖と無性生殖(芽球形成、出芽)が存在する。有性生殖では体内に卵、精子が形成され、体内か体外で受精、発生が行われる。雌雄異体の場合は体外受精、雌雄同体の場合は自家受精が多い。

[星野孝治]

利用

海綿を最初に利用したのはフェニキア人あるいはエジプト人といわれている。彼らは、海岸に打ち上げられたモクヨクカイメンの仲間を骨格繊維だけに加工し沐浴(もくよく)用や兵士の膝盾(ひざたて)のクッションとして利用した。現在では海綿が人間生活に利用されることは甚だ少なく、尋常海綿類のモクヨクカイメンの仲間の数種が化粧用、事務用として利用されているにすぎない。また、六放海綿類はその珍奇な形から、ホッスガイ、カイロウドウケツなどが趣味家の飾り物にされている。しかし、ごく最近になって、海綿は抗生物質や生理活性物質を産生することが知られるようになり、海綿から発見された細胞分裂を抑制する物質が抗癌剤(こうがんざい)として合成され、医療用として使用されるようになった。今後この方面の研究はますます発展するものと思われる。

[星野孝治]


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