日本大百科全書(ニッポニカ) 「温泉沈殿物」の意味・わかりやすい解説
温泉沈殿物
おんせんちんでんぶつ
地表に湧出(ゆうしゅつ)した温泉水が、圧力や水温の変化による脱ガスや溶解度の差を生じたり、また大気中の酸素と反応する結果生成される沈殿物。温泉華(か)または湯の華(はな)ともいう。
硫黄(いおう)泉では硫化水素の酸化により単体硫黄が生成する。これが硫黄華(湯の華)である。酸性泉からは硫酸塩が生成する。秋田県玉川温泉の北投石(ほくとうせき)は、鉛を含む重晶石(硫酸バリウム)でラジウムを少量含むため放射性である。噴気ガスと岩石との相互作用で生成するアルノーゲンやハロトリカイトは白色ないし淡黄色の結晶として存在するが、水溶性であるため特定の場所にのみ生成する。これは鉄やアルミニウムの硫酸塩である。アルカリ性の温泉からはシリカを主成分とする珪華(けいか)が沈殿する。白色で硬く、温泉水を導くパイプをふさぐスケールになることがある。炭酸水素塩の形でカルシウムや鉄が溶存している場合には、温泉水から二酸化炭素が抜けると炭酸塩を沈殿する。炭酸カルシウムが生成すると石灰華という。石灰華には方解石とあられ石があり、温泉水の温度や溶存成分により、いずれかの結晶形を主体とする沈殿物を生成する。この場合、鉄を含むと褐色になる。アメリカのイエローストーン国立公園には種々の形の石灰華があり、日本の北海道二股(ふたまた)温泉には石灰華ドームがある。ドーム上から温泉の噴出しているのを噴泉塔という。鉄が主成分の場合は鉄華とよぶ。山梨県増富(ますとみ)温泉などでは石灰華にラジウムが共沈して放射性を示す。噴泉塔(石川県岩間温泉)や石灰華(北海道二股温泉)など天然記念物に指定されているものが多い。スケールの生成は湧出量を減少させ、除去は容易ではない。
[綿抜邦彦]