古代中国の、天体研究のための器械。後漢(ごかん)の時代の技術者張衡(ちょうこう)が、順帝(在位126~144)の代に「地動儀」という地震計を製作し、また「渾象(こんしょう)」とよぶ観測器械を発明したという。後者が渾天儀で、璿璣玉衡(せんきぎょくこう)ともよばれ、内外規、南北極、黄赤道、二十四気(二十四節気)、二十八宿、中外星官(星座)、日月五緯(太陽、月、五惑星。日月五星ともいう)などの目盛りをつけた円環の組合せで、密室内に置いて漏水により運転し、天体の位置を推定したという。今日のプラネタリウムのような器械であったが、宇宙が球状構造であるという宇宙論「渾天説」に従って構成されていた。渾天儀は中国の観測器械の中心となり、隋(ずい)代には観測用の円孔をつけた照準衡が取り付けられ、実地の天測に用いられるようになったという。現在、北京(ペキン)古観象台に残されている渾天儀は明(みん)代の製作と伝えられ、青銅製である。
[石田五郎・藤井 旭]
『能田忠亮著『東洋天文学史論叢』覆刻版(1989・恒星社厚生閣)』
渾儀ともいう。古くから天体の位置を観測するために用いられた器械。前漢の太初改暦(前104)のときには落下閎(こう)が作った渾儀が使用されており,すでに漢代以前から存在したという主張もある。後漢の賈逵(かき)はこれに黄道環を加え,黄道銅儀と呼んで二十八宿の黄道経度などを測定し,南北朝期の張子信(6世紀)は渾儀によって太陽,月,五惑星の視運動を観測した。唐代の李淳風が作った渾儀は3層よりなり,子午環・地平環・赤道環よりなる外層の六合儀,璣環・赤道環・黄道環・白道環よりなる中層の三辰儀,南北極軸上を回転する赤経双環および双環の中を南北に回る窺管(きかん)(望筒)よりなる内層の四遊儀によって構成されていた。北宋の皇祐年間(1049-53)に周琮が作った渾儀の構造は,蘇頌の《新儀象法要》に図解されている。元の郭守敬が1276年(至元13)ころに作成した玲瓏(れいろう)儀は,明代の1437-42年にかけて忠実に複製されたが,南京の紫金山天文台に現存する渾天儀は,この形式を忠実にとどめたものである。渾天儀と同様の観測器械にアーミラリー・スフェアarmillary sphere(アルミラ球儀ともいう)があり,古代ギリシアのエラトステネスが発明したとされ,のちにT.ブラーエもアーミラリー・スフェアを作って惑星観測を行った。渾天儀とアーミラリー・スフェアは前者では赤道座標が測定されていたが,後者では黄道座標が測定されていた点で異なる。清朝のはじめに宣教師のフェルビースト(南懐仁)が作製したものが北京の観象台に残っている。
→天球儀
執筆者:橋本 敬造
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…文学の才にたけ,〈西京賦〉〈東京賦〉〈南都賦〉〈思玄賦〉などの詞賦を書き,また七言詩成立途上の一時期を画す〈四愁詩〉を作った(いずれも《文選》に収録された)。天文・陰陽・暦算に通じ,渾天(こんてん)家として《霊憲》を書いて,宇宙生成説,宇宙説を論じ,さらに〈天地は鶏卵のよう〉に球状の天が中央のまるい地を包むという明確な渾天説に基づいて《渾天儀》を書き渾天儀の製法について述べた。候風地動儀とよばれた世界最古の地震計の製作のほかに記里鼓車(里程計)あるいは指南車の設計者としても知られている。…
…前2者は現在の赤経・赤緯にあたるものであるが,〈黄道内外度〉はやや特殊なもので,インド天文学にいう〈極黄緯〉と一致する。これらの数値より逆算すると,現存の《石氏星経》は前70年ごろに〈渾天儀〉によって観測された数値によると思われる。現在は周天を360度に分割するが,中国では1年の端数に等しい数に分割してきた。…
… 一方,中国でも,伝説上ではあるが,尭帝の時代に,恒星の南中を観測して1年の長さをきめていたとされている。下って前104年,前漢の時代に太初暦という暦が制定されたころ,落下閎(こう)という天文学者が,以後長く中国の伝統的天文観測具となった渾天儀を使って観測したという。その後,隋,唐,宋の各時代にも,この渾天儀が改良製作され,1260年になって元のフビライが皇位に就き,北京に天文台を建設したときに作られたものは今でも残っている。…
※「渾天儀」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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