天体の赤経・赤緯を精密に測定するための装置。口径10~20センチメートル程度の望遠鏡、それを支える精密な架台、望遠鏡の回転角を測る高精度目盛環、天体の南中時刻を測定する時計、などにより構成される。とくに望遠鏡は東西軸のみで回転され、子午線上の天体しか見られない構造となっており、この意味で「子午儀」の一種であるが、目盛環を備えているゆえに「子午環」とよばれる。
観測原理は、二つの天体の赤経差を子午線通過の時間差として測り、赤緯差を目盛環によって測る、ということになるが、もっとも困難かつ重要なことは、視野内での天体と望遠鏡の十字線との合致をどのように決定するか、ということである。従来の眼視方式でも、マイクロメーターや移動十字線などのくふうが凝らされていたが、1980年代になるとスリットと光電管を組み合わせた自動式子午環が開発され、国立天文台などに設置された。
観測量は2天体間の相対角距離であるが、周極星の子午線通過を一夜に二度、極の上方と下方で観測することにより極方向が決定され、また惑星や太陽の観測により黄道および春分点が決められて、すべての天体の赤経赤緯値が得られる。これを「絶対観測」または「基準観測」とよぶ。一度基準観測を行っておもな恒星の赤経赤緯値を決めておけば、これを利用して相対観測のみから他の天体の位置が決定される。このような基準観測によって位置決めされた恒星のリストを「基準カタログ」とよぶ。このようなカタログを構成・改良することが子午環の重要な仕事である。ただし1990年代には、より高精度な相対観測が人工衛星(ヒッパルコス衛星)によって行われ、また基準観測に相当するものが超長基線電波干渉計(VLBI)によって行われるようになり、子午環はその歴史的役割を終えた。
[中嶋浩一]
天球面上での天体の位置(赤経,赤緯)を絶対的な基準で決定するための唯一の精密観測装置。直接的には,日周運動によって天体が子午線を通過する瞬間における恒星時と天頂距離を正確に測定する。子午環の望遠鏡光軸が正確に子午線面内(天頂方向と地球自転軸方向を含む面)だけで回転し,光軸の天頂からの回転角距離を測定できるように,東西に指向した水平回転軸と高度目盛環をもつ。望遠鏡接眼部には,赤経・赤緯方向の角度を1/100角度秒の精度で測定可能なマイクロメーターがある。望遠鏡光軸の正確な向きを常時検定するため,視準器,子午線標,天底鏡および高度目盛読取用の顕微鏡などの付帯設備がある。周極星や太陽,惑星の子午環観測によって,真の赤道(赤緯原点)と真の春分点(赤経原点)が決められる。現代的な子午環では,接眼部に光電式マイクロメーターが装着され,自動観測ができるようくふうされている。
執筆者:宮本 昌典
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…地球全体を縮小した立体模型。経緯線,海陸の配置,地名などが記入されている球で,南北両極の支点によって〈子午環〉につながっており,回転可能である。子午環は地軸を通る大円(子午線)に沿う円環で,緯度目盛が刻まれており,これと直角をなす〈地平環〉の内側の溝にはめこまれており,この溝を通る方向の回転は自由である。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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