漁業の状況すなわちある時点での漁獲の良否をいう。単位としてとる時空間の範囲は狭い場合も広い場合もある。例えば相模湾の,ある定置網での春ブリの漁況ということもあるし,昨年のサンマの漁況というようにもいう。水産資源の消長は,乱獲として知られるように人間による漁獲の影響もあるが,自然の環境変動に影響されるところが大きい。水生生物の分布,移動は水温,塩分など種々の環境要因に支配される。漁期における漁場の環境条件を海況というが,漁況は海況と密接に関連しており,漁況,海況,あるいは漁海況と並べられる場合が多い。
漁業者にとって漁の良否は最大関心事で,いつ,どこで,何が,どのくらい,とれるかをあらかじめ知りたいという願いは古くからあった。いろいろの海の条件で漁がよかったり悪かったりすることを漁業者は経験的に知っており,経験を生かして日々の漁を行ってきたわけだが,これを科学的,組織的に行おうというのが漁況予測である。漁況は海況と密接に結び付いているので,漁況予測は海況予測と不可分のものである。
日本における漁況予測は1887年の水産予察調査に始まるとされるが,その後,海洋調査,漁場学的研究,漁況と海況との関係に関する研究が着々と進められ,今日の基礎を築いた。中でも〈魚群は潮目に集まる〉という北原多作の発見は,これを引き継いだ宇田道隆の潮目の研究により,〈海洋前線(潮境)は海洋生物の濃密に集まる水域を示し,そこには好漁場が形成され,通常海面に走る条目を現す潮目(収束線)がその指標となる〉というように拡張され,漁場開発に大きな貢献をした。
漁況予測は将来の漁獲量の予測であり,資源,環境,漁業の3者の予測を総合する必要があるが,漁業については管理可能であるので,ある状態(今年と同じとか)を仮定し,資源と環境という自然条件の予測を行う。予測は1週間とか1ヵ月単位の短期,数ヵ月後の中期,1年以上の長期に分けられる。それぞれ予測の目的,内容,方法が異なる。短期の場合,どこに漁場が形成され,どのくらい続くか,魚群の性状(大型成熟個体か小型群かなど)が関心事であるが,長期の場合は資源の動向が重要である。
予測の基礎となる漁海況に関しては,現在では漁業情報センター(1972設立)が,協力漁船,漁業協同組合,水産研究所,水産試験場などからテレックスや電話で情報を集め,センターでこれを処理,解析して,漁海況速報その他としてまとめ,ファクシミリ,無線電信電話,ラジオ,印刷物を通して,広く漁業者に通報している。
執筆者:清水 誠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報