固有名詞としては,1929年に設立され,第2次世界大戦後,49年に廃止された国立の農林省水産試験場,あるいは各都道府県に設置されている地方の水産試験場をさす。一般的には水産に関する試験・研究を行う機関の総称で,国立・公立・私立さまざまのものがある。水産という語が使われるようになったのは明治時代になってからであり,組織的に水産に関する調査・研究が行われるようになったのも明治時代になってからである。1877年内務省に水産係が置かれ,81年には農商務省の新設に伴い水産課に変わった。さらに85年水産局の設置となるが,この中には試業課も置かれ,ここは試験講究に関する事務を扱うことになっていたから,このころから研究に関する行政体系が整い出したといえよう。88年から5年間にわたり,全国を(1)北海道区,(2)東海区(青森県より和歌山県までの太平洋岸),(3)西南海区(四国,九州および沖縄),(4)日本海区(青森県より山口県までの日本海岸),(5)内海区(瀬戸内海1府10県)の5海区に分けて,日本で初めての漁業に関する基本的な調査が行われた。93年水産調査所が設置され,水産調査委員会が組織され,また94年には地方水産試験場として最初の愛知水産試験場が設立され,ようやく水産の調査研究の必要性の認識が世に広まり始めた。地方水産試験場はこの後増え,明治期には大半の県に設置を見,1930年の群馬県を最後にすべての府県に置かれることとなった。1897年水産講習所(のちの東京水産大学。2003年東京商船大学と統合し,東京海洋大学となる)が設置された。この講習所の試験部は中央水産試験機関の役割を果たしたが,1929年農林省水産試験場の設置に伴い,その役割が引き継がれ,第2次世界大戦までこの体制が続く。
戦後49年,地域的特徴に対応する形の8海区体制へと変更される。すなわち水産試験場を廃止し,新たに北海道海区,東北海区,東海区,南海区,西海区,日本海区,内海区,淡水区の8水産研究所を設置することとなった。その後,遠洋漁業の重要性が高まるのに伴い,67年各海区水産研究所より遠洋漁業資源に関連の深い部分を集めて,遠洋水産研究所を設置し,これに伴い南海区と内海区を併せて南西海区水産研究所とした。さらに,増・養殖の進展,土木・工学的研究の重要性の認識から,79年淡水区が廃止されて,養殖研究所と水産工学研究所が新設された。後者には農業土木試験場の水産土木部門が含まれることとなった。また東海区は89年,中央水産研究所となった。これらの試験場・研究所においては,水産生物自体の問題,漁具・漁労に関する問題,増・養殖に関する問題,水産物の利用・加工など水産学のすべてにわたる調査・試験・研究が行われている。もちろん個々の研究所,試験場においてはそれぞれの地域特性などを生かす独自のテーマが追求されている。なお2001年中央水産研究所などは統合によって独立行政法人の水産総合研究センターとなった。
執筆者:清水 誠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
都道府県の水産試験研究機関。資源、海洋、漁場環境保全、漁具漁法、加工などの調査研究のほか、漁業者や加工業者に対する新技術の普及や技術改善等の指導などにあたっている。都道府県内地域の行政対応が中心ではあるが、国立研究開発法人水産研究・教育機構(水産資源研究所・水産技術研究所)に協力して、資源調査や漁況、海況の調査と予測など、都道府県を越えた広域的な課題にも取り組んでいる。
1894年(明治27)に農商務省令「農事講習所規程」が公布され、これに基づいて同年に愛知県に日本で最初の水産試験場が設立された。1899年には農商務省令「府県水産試験場及び水産講習所規程」が交付されるとともに、府県農事試験場国庫補助法が施行されたことから各地に水産試験場が設置されることとなった。2021年(令和3)時点では奈良県以外の全都道府県に水産試験場が設置されている。
なお、現在水産試験場という名称を用いているのは16道県であり、その他の都府県では水産総合研究センター、水産海洋技術センター、水産総合センター、水産研究所などの名称に変更されている。また、北海道と青森県では水産試験場は地方独立行政法人の機関となっている。
[廣吉勝治・工藤貴史 2022年7月21日]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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