中国の清朝末期に設立された最大の製鉄会社。湖北省の漢陽鉄厰,大冶(だいや)鉄山,江西省の萍郷(ひようきよう)炭鉱の3事業を統合するもの。1890年湖広総督張之洞は京漢鉄道への鋼材供給などの目的で,漢陽鉄厰を官営企業として発足させた。ついで,鉄鉱石,燃料・コークス炭の供給のため大冶鉄山(1896),萍郷炭鉱(1899)が開発された。生産品に対する低率課税,輸出税の免除などの特権で保護されたが,日清戦争後の清朝財政の窮乏のため経営が苦しくなった。このため,官督商弁企業となり,民間資本が導入され,ついで1908年,3企業を合併し,盛宣懐を社長とする純民間会社として漢冶萍煤鉄厰鉱有限公司になった。資本金は2000万元だったが,そのうち2/3は借款として受け取っていたものだった。その後,日本興業銀行,日本郵船,大倉組,横浜正金銀行,大蔵省預金部などで6000万円をこえる借款を与え,鉄鉱石,銑鉄購入で独占的立場を占めた日本は,購入代金前貸などの形で,公司の事実上の支配権を握った。日本の国内生産のうち銑鉄で73.8%,鋼材で83.5%を占めていた(1913)。八幡製鉄所の原料鉄鉱石は,中国からの輸入分が1901-28年まで39~100%を占めていたが,そのうち,大冶鉱が1918年までは100%,以後も半数前後を占めつづけた。このように日本鉄鋼に不可欠の公司への支配を確実にすべく,1915年の対華二十一ヵ条要求では日中合弁が要求されたが,中国側官民の抵抗で実現しなかった。
第1次大戦中,鋼材需要の拡大,鋼材価格の高騰で公司の事業は活発化し,銑鉄生産量は全国の新式銑鉄生産の2/3(16.6万t)を占めた(1919)。しかし,主要な製品輸出先である日本への販売価格が借款契約によって市価の1/4~1/5と低くおさえられていたため,しかるべき利潤を確保できなかった。さらに,第1次大戦後の鋼鉄価格の下落や内戦によって経営不振となり,25年には漢陽鉄厰は操業を停止したが,大冶鉄山は八幡製鉄所への鉱石供給を続けた。日中戦争がはじまると日本の管理下にはいり,38年日本製鉄大冶鉱業所の開設にいたった。第2次大戦後,国民政府に回収され,中華人民共和国成立後には,ソ連技術者の指導の下で施設の改善が行われた。54年国営企業となり,現在にいたるまで重要な地位を占めている。
執筆者:小杉 修二
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中国に存在した大製鉄企業。現在の華中鋼鉄公司大冶鋼廠(だいやこうしょう)の前身。湖北(こほく)省の漢陽(かんよう)製鉄所、大冶鉄山、江西(こうせい)省の萍郷(へいきょう)炭鉱を一括経営した。清朝末期の1891年、張之洞(ちょうしどう)の主導で設立された官営漢陽鉄政局を母体とする。1897年盛宣懐(せいせんかい)経営の官督商弁に移り、1908年民営の漢冶萍煤鉄公司(公称資本金2000万元、総弁盛宣懐)となった。以後、日本興業銀行(現、みずほ銀行およびみずほコーポレート銀行)、横浜正金(しょうきん)銀行(のちの東京銀行。現、三菱(みつびし)UFJ銀行)などを通じ多額の円貨債を導入し、1912年には日華合弁の仮契約を締結したが、株主総会で否決された。日本は二十一か条要求においても権益を主張した。1922年、大冶鉱の積出し港石灰(せっかいよう)(現、黄石(こうせき))にも大冶製鉄所を建設し、1928年萍郷炭鉱を分離した。1930年には日本側の借款を八幡(やはた)製鉄所が肩代りし、大冶鉱への依存を強めた。日中戦争の間は日本軍が接収、日本製鉄の管理下に置いた。中華人民共和国成立後、漢陽は武漢(ぶかん)市の一部となり、郊外に武漢鋼鉄公司という一大コンビナートが建設され、中国重工業の一中心地になった。大冶製鉄所の後身、大冶鋼鉄廠は、高級・特殊鋼の生産で名高く、1993年に大冶特殊鋼股份(こふん)有限公司となった。
[岡部牧夫 2018年8月21日]
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…地名は春秋時代,楚の昭王がここで萍(浮草)の実を得たためという。その後,山間の交通要衝であり続けたが,清末,湖広総督となった張之洞により,県内安源山の炭田が開発され,漢冶萍煤鉄公司の重要な資源基地となるとともに,一転して近代的工業都市への道をたどることになった。1905年(光緒31)漢陽に設けられた製鉄所へ石炭を供給するため,安源山より湖南株洲へ鉄道が引かれ,ついで東へも南昌,九江,杭州と結ぶ鉄道も設けられた。…
※「漢冶萍煤鉄公司」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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