翻訳|Euphrates
西アジアの大河。トルコ、シリア、イラクの3か国を流れ、ティグリス川と並び称せられる。アラビア語ではフラートFurāt川、トルコ語ではフーラトFirat川という。トルコ東部のアルメニア高原にカラスー川(別名西(バトウ)フーラト川)、ムラト川の二本の流れとして源を発し、西流して人造のケバン湖で合流してのちは、ユーフラテス川となって南へ流路をとり、南東トロス山脈を横切ってのちシリアに入る。その後はシリア、イラク領内をほぼ南東流し、シリア台地およびメソポタミア平原を蛇行しつつペルシア湾湾頭付近に至り、ティグリス川と合してシャッタル・アラブ川と名をかえ、ペルシア湾に流入する。全長約2800キロメートル。降水に恵まれた上流部のトルコ領内では、トフマ川、ペリ川など多くの支流をもち、アルメニア高原、アナトリア高原に複雑に谷を刻む。シリアに入ってのちもトルコ領から南流するバリフ川、ハブル川などをあわせるが、メソポタミア平原に入ると気候も乾燥するため、支流はすべて、ハウラーン・ワジなどの涸(か)れ谷を呈する。なお下流部は排水が悪く、ハマール湖をはじめ沼沢地が広がる。
ティグリス川に比べ水量豊かな支流を中流部で欠き、年間流水量はティグリス川の60%の26億トンにとどまる。春先にはアルメニア高原の融雪によって増水し、逆に初秋には減水する。ティグリス川とともに古代メソポタミア文明をはぐくんだが、今日でも用水路や揚水、溢流(いつりゅう)などの方法によって灌漑(かんがい)用水として広く利用され、小麦、大麦、米、ミレット、ナツメヤシ、野菜などの生産を支えている。流れの緩やかな中・下流域でも川底が浅いため、舟運の便には乏しい。第二次世界大戦後は水資源の総合開発事業が進行し、シリアでは1975年、ラッカ上流に灌漑・発電用のユーフラテス・ダムがソ連の援助で建設された。またトルコでは、1974年に完成した灌漑・発電用のケバン・ダムのほかにも、さらにその下流に発電用のカラカヤ・ダム、灌漑・発電用のアタチュルク・ダムの建設が進められている。
[末尾至行]
トルコ西部のクルディスターン山岳地帯を水源とし,シリア北部を通り,イラクのクルナでティグリス川に合流しシャット・アルアラブ川となるまでの全長2800kmの川。アラビア語ではフラートal-Frāt川。流域面積は北をほぼ平行して流れるティグリス川のそれとを合わせて76万5000km2とされる。トルコ領内では降雨農業を営む山村地域を流れるが,シリアに入ると乾燥した洪積台地を開析して東行し,高さ数十mの石灰岩質の壁に挟まれたような帯状の灌漑農地が両岸に現れる。イラク領に入ってヒートを過ぎるとメソポタミアの沖積平野に入り,大規模灌漑地域になる。ここではティグリス川より低い水位で蛇行し,しばしば2本に分かれてはまた合しつつハンマールal-Hammār湖に没し,再びそこを出て湿地帯を抜けてクルナに至る。増水期は5~6月とティグリス川より1ヵ月遅い。1908年ヒンディーヤに初めて治水用の堰堤ができて以後,とくにイラクが莫大な石油収入に恵まれるようになる50年代以後,イラク内各地に治水灌漑用の堰堤やダムが建設されている。74年に上流のトルコ領にケバン・ダムが完成し,75年にはシリア領内でユーフラテス・ダムが一部完成し,ともに貯水を始めたため,75年には下流のイラクで300万の農民が水不足に陥って抗議の声があがり,シリアが水を放流して事なきをえたが,当該3国による恒久的な解決策が必要となっている。
→メソポタミア
執筆者:冨岡 倍雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
トルコ,シリア,イラクを貫流する大河。ティグリス川とともに「両河」と呼ばれ,その流域に古代メソポタミア文明が栄えた。下流はティグリス川に合してペルシア湾に注ぐ。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
…メソポタミア文明の故地として知られる。
【自然,住民】
トルコ東部に発するティグリス川とユーフラテス川とによってつくられる沖積平野が国土の4分の1を占めるが,北部のティグリス川とその支流小ザーブZāb al‐ṣaghīr川の上流,および北東部のザグロス山脈に連なるイランとの国境地帯は,山岳地帯である。また西部はシリアとサウジアラビアにまたがる砂漠で,国土の約半分を占める。…
…78年にもガンガー平原一帯が大洪水に見舞われ,大きな被害があった。【応地 利明】
【西アジア,エジプト】
治水事業は,ティグリス川,ユーフラテス川とナイル川に集中して行われてきた。メソポタミアに中央集権的な国家を建設したバビロン第1王朝のハンムラピ王は,ユーフラテス川とティグリス川を結ぶ大運河を幾本も開削し,それらを無数の小運河で結ぶことによって,毎年5月に起こる洪水を統御するとともに,両河の水を灌漑水として有効に利用する体系をつくりあげた。…
※「ユーフラテス川」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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