全身の皮膚にはエクリン汗腺が分布して汗を分泌しています。汗には体温を下げる作用があります。広範囲の皮膚で汗が出ない無汗症では体温調節ができなくなります。高温が長時間続くと熱中症の危険が増します。
原因には先天性(先天性無汗症)と後天性(後天性無汗症)のものとがあります。汗の出ない部位が全身の場合(全身性無汗症)と体の一部に限られている場合(限局性無汗症)とがあります。
交感神経の刺激によりエクリン汗腺から汗が分泌されるので、中枢神経、
狭い範囲の限局性無汗症ではとくに症状はなく、偶然に気づくことがあります。広範囲の無汗症では、体温調節ができなくなります。全身性無汗症では、運動時や高温環境下で汗が出ずに体温が上昇して
後天性全身性無汗症では、発汗刺激時に皮膚に痛みを伴うことがあります。先天性全身性無汗症では、毛や歯の異常を伴うことがあります。
中枢神経系、脊髄神経系、末梢神経系の疾患があると汗が出なくなるので、これらの異常の有無を調べる神経学的検査や画像検査を行います。
汗腺に異常があるかどうかを調べるためには、アセチルコリンを皮内に注射しエクリン汗腺を刺激して発汗の有無を見ます。コリン刺激薬をイオンフォレーシスで導入して発汗の有無を調べる検査方法もあります。
先天性の無汗症にはよい治療法がありません。熱中症にならないように、環境に注意しながら生活します。神経疾患やその他の疾患に伴う無汗症では、原因になっている疾患の治療を行います。
無汗症には多くの原因があります。皮膚科専門医の診察を受け、正しく診断して適切に対処することが大切です。
嵯峨 賢次
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
発汗がまったくないか、わずかしかない状態をいう。体温の放散が困難なため、しばしば発熱する。温熱中枢の失調や障害、末梢(まっしょう)神経の損傷、代謝異常(糖尿病、アミロイド症、ファブリー病)、先天性の汗腺(かんせん)欠除(先天性無汗性外胚葉(はいよう)形成不全症)、汗腺の萎縮(いしゅく)や消失(皮膚の老化、汎発(はんぱつ)性強皮症、シェーグレン病、瘢痕(はんこん))、汗管の閉塞(へいそく)(アトピー性皮膚炎などの湿疹(しっしん)類、乾癬(かんせん)、魚鱗(ぎょりん)癬)などでおこる。
[齋藤公子]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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