滝井孝作(こうさく)の長編小説。『新小説』掲載の『竹内信一』(1921.8)、『改造』掲載の『無限抱擁』(1923.6)、『新潮』掲載の『沼辺(ぬまべ)通信』(1923.8)、『改造』掲載の『信一の恋』(1924.9)のそれぞれ独立した四短編を合わして長編に仕立て『無限抱擁』の題名で1927年(昭和2)9月改造社より刊行。主人公信一は滝井孝作自身で、正真正銘の自伝的私小説。吉原で見そめた松子との愛情、その松子と彼女の母との3人暮らし、松子の結核による死の経緯が、勁(つよ)いストイックな文体で、詩情を含みつつ剛直に述べられている恋愛小説の傑作。俳句によって鍛えた写生の力と、省略による飛躍の力のみなぎる息苦しい文体だが、その真率な心情は読者に深いおもりを下ろす。滝井孝作の初期の代表作であるとともに近代の恋愛小説のなかの白眉(はくび)。
[紅野敏郎]
『『無限抱擁』(1984・中央公論社)』▽『『筑摩現代文学大系30』(1978・筑摩書房)』
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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