写生(読み)しゃせい

知恵蔵の解説

写生

対象をありのままに写す方法。明治以降、スケッチ、デッサンの訳語として一般化していたものを、正岡子規短歌俳句に導入した。子規自ら「写生といひ写実といふは実際有のままに写すに相違なけれども固より多少の取捨選択を要す」(「叙事文」、1900年)と述べているように、写生はもとより、虚構の要素を抜きにして成り立つものではなく、子規は、写生という用語でもって、リアリズム文学の方法を指し示していたことになる。その後、写生説については、子規から雑誌「ホトトギス」(1897〜)編集を受け継いだ高浜虚子河東碧梧桐など子規の後継者の間で、客観か主観か、現実か理想か、自然中心か人間中心なのか、という論争が繰り広げられていく。他方、伊藤左千夫島木赤彦斎藤茂吉など、短歌雑誌「アララギ」(1908〜97)に結集したアララギ派は、写生を単なる方法としてのリアリズムに解消せずに、象徴的な力学に注目する方向でそれを再解釈、深化させようとした。短歌と俳句の現代は、「アララギ」や「ホトトギス」的伝統から離れて自由律、口語短歌へ向かう、あるいは定型や季語の枠から脱せんとする動きとして展開されていく。

(井上健 東京大学大学院総合文化研究科教授 / 2007年)

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デジタル大辞泉の解説

しゃ‐せい【写生】

[名](スル)景色や事物のありさまを見たままに写し取ること。絵のほかに、短歌・俳句・文章についてもいう。スケッチ。「梅の花を写生する」「写生旅行」

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世界大百科事典 第2版の解説

しゃせい【写生 xiě shēng】

東洋絵画における用語として対象をそのままに写しとることをいい,細密な描写の花鳥画について多くいわれる。写生は画家の主観表現を意味する〈写意〉に対する言葉ではあるが,対象の〈生命〉を写すことは,画家自身の生気と無関係ではなく,単なる客観的な写実主義とは一線を画し,作品そのものも西欧の静物画とはかなり異質な性格をもつ。【戸田 禎佑】

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大辞林 第三版の解説

しゃせい【写生】

( 名 ) スル
実際の景色や物をありのままに写しとること。スケッチ。絵画から出て、短歌・俳句・文章についてもいう。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

写生
しゃせい

自然や事物を実際に見たままに描くこと。中国絵画では唐末ごろから、先人の作品を写し描く伝統的な「臨画」の方法に対して、実物を観察描写する写実的傾向が強まったが、「写生」はこの「臨画」に対することばとして使われた。また宋(そう)代からは、動植物など生きたものを直接描写する意味に使用されるようになった。わが国では江戸時代に、オランダ絵画の流入に伴い、円山応挙(まるやまおうきょ)らが写生を重んじた。明治時代になると、このことばはスケッチやデッサンの西洋絵画用語の訳語にあてられた。大正期には、学童を手本の模写から解放して直接自然に親しませようという自由画教育が山本鼎(かなえ)らによって提唱されたが、その普及に伴い、学校の図画教育でも実物を前に置き、あるいは屋外に出て風景などを見たままに描く「写生」が盛んに取り入れられた。
 日本での写生の意味は中国の原義とはやや異なるが、その精神はいずれも、直接自然の対象を観察することによって、形式にとらわれずにその物のありのままの姿、ひいてはその内奥にある本質に迫ろうとするものである。それは西洋絵画における写実主義や自然主義の精神と相通じるものを多分にもっているが、両者を直接結び付けて論じることは適当ではない。[八重樫春樹]

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精選版 日本国語大辞典の解説

しゃ‐せい【写生】

〘名〙 実際の景色、事物などを見たままに絵に写し取ること。また、客観的な描写を主とする態度で、短歌、俳句、文章についてもいう。〔文明本節用集(室町中)〕
※随筆・胆大小心録(1808)六七「心底に写生をこころへて、術は牧渓などが筆法で、骨があった」
※破戒(1906)〈島崎藤村〉一八「写生の筆を休(や)めて眺めた」 〔書言故事‐画者類〕
[語誌](1)東洋画論における「写生」の手法は、近世初期には日本に取り入れられているが、一般に気韻や写意を旨とした。
(2)明治初期の洋画は、フォンタネージによって「写生」を重視したが、なお「生命を写す」意で用いられた。
(3)生来絵画への愛好の念が深かった正岡子規は、下村為山や中村不折・浅井忠等の洋画家から示唆を受け、その文芸における「写生」概念の確立にも得るところが大きかった。

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世界大百科事典内の写生の言及

【写実主義】より

…一つは坪内逍遥を中心とするもので,もともと〈演劇改良運動〉に発している。もう一つは,正岡子規の〈写生〉に発するもので,〈詩歌の改良〉からはじまっている。それらは,まもなくいわば〈小説の改良〉として,小説における写実主義に転化していったのであるが,そこにはまだ何かが欠けていた。…

【円山応挙】より

…これにより奥行き表現への関心を開かれたが,京名所眼鏡絵には機械的な透視遠近法を避けようとする意識もみられ,そのみごとな成果が1765年の《淀川両岸図巻》である。一方,同じ年に描かれた《雪松図》(東京国立博物館)では,個物に肉迫する写生的態度が看取され,ここに用いられた付立て(つけたて),片ぼかしなどの技法は,のちに整備されて円山派のお家芸となった。明和年間(1764‐72)円満院の祐常門主の庇護を得て,個物に対する写生を熱心に行い,多くの写生帖(東京国立博物館ほか)を遺し,人体に対する即物的関心は,《難福図巻》(円満院)などに示されている。…

※「写生」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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