燻・薫(読み)くすぶる

精選版 日本国語大辞典 「燻・薫」の意味・読み・例文・類語

くすぶ・る【燻・薫】

〘自ラ五(四)〙
① 火がよく燃えないで煙ばかりが出る。いぶる。くすぼる。ふすぶる。〔色葉字類抄(1177‐81)〕
一兵卒銃殺(1917)〈田山花袋〉二七「物のくすぶる匂ひがそれとなくあたりに漲り渡った」
② 煙の煤(すす)で黒くなる。また、それに似た様子である。すすける。くすぼる。
※洒落本・駅舎三友(1779頃)二階「くすぶった茶わんが出た」
茶話(1915‐30)〈薄田泣菫〉俳優の盗み「倫敦(ロンドン)の煤(クス)ぶった市街(まち)をぶらぶら歩いてゐると」
③ 引きこもって陰気に暮らす。世間的に認められない地位境遇にとどまる。くすぼる。くすむ。
浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一「仕官の口を探すが〈略〉心ならずも小半年ばかり燻(クスブ)ってゐる」
④ (比喩的に) 事件、騒ぎ、不満などが、完全に解決されないまま、表立たないところで続いている。
※助左衛門四代記(1963)〈有吉佐和子〉序「口に出せない不満を胸の中でくすぶらせた」
[語誌](1)「くすぶる」「くすべる」は、古来の「ふすぶ」(下二段)と同様の意味を表わすものであるが、近世以降に多くみられるようになる。
(2)「色葉字類抄」に「薫 クンス クスブル」とあるが、この時期「くすぶる」の実例は見当たらない。
(3)「観智院本名義抄」では「ふすぶ」「ふすぼる」、「日葡辞書」では「ふすぶる」「ふすぼる」の形であげられていて「くすぶる」は見られないが、「かた言‐三」には、「ふすぶるをくすぼるは如何」とあり、近世には語頭音は「ふ」と「く」の両形が存していたことがわかる。

くすぼ・る【燻・薫】

〘自ラ四〙
※玉塵抄(1563)四二「无明煩悩の心の中にあってぜんぜんにくすぼりつるを云ぞ」
※続俳諧師(1909)〈高浜虚子〉三〇「姉さん、今度の炭はくすぼっていかんね」
※黄表紙・高漫斉行脚日記(1776)上「むしゃうにくすぼった身なりをすれども」
③ 陰気になる。気をくさらせている。不機嫌になる。
浄瑠璃信州川中島合戦(1721)二「折焚く柴の夕烟、くすぼる顔も煎じ茶の」
※倫敦消息(1901)〈夏目漱石〉二「人は〈略〉貧乏町にくすぼってると云って笑うかも知れないが」
金銭に不自由する。工面が悪い。
咄本・諺臍の宿替(19C中)一二「あんな人らに十両も金とられるといふことがある物か。あほらしい。今になってみなくすぼって」

くす・べる【燻・薫】

〘他バ下一〙 くす・ぶ 〘他バ下二〙
① 燃やして煙を出す。くすぶらせる。いぶす。ふすべる。
浮世草子・けいせい伝受紙子(1710)五「火打をうって火を出し、葉柴につけてくすべし也」
② (けむたい思いをさせる意から) 責める。意見する。また、嫉妬する。
※浮世草子・武道伝来記(1687)四「小間物売と密通したるとくすべられしに」
③ (時間を計るのに線香をたくところから) 娼妓を買うことをいう花街の語。

くゆ・る【燻・薫】

〘自ラ四〙
① 炎を上げないで煙だけ出して燃える。煙や匂いなどが立ちのぼる。くすぶる。
※後撰(951‐953頃)恋四・八六五「風をいたみくゆる煙の立ちいでても猶こりずまの浦ぞ恋しき〈紀貫之〉」
② 気がはれないで、あれこれと思い悩む。恋心などで思い悩む。
※大和(947‐957頃)一七一「人しれぬ心のうちに燃ゆる火は煙は立たでくゆりこそすれ」

くゆら・す【燻・薫】

[1] 〘他サ五(四)〙 (「くゆる(燻)」の他動形) 煙や匂いなどを立ちのぼらせる。くゆらかす。くゆらせる。
※六百番陳状(1193頃)春「山田庵の下に火をくゆらして」
※随筆・雲萍雑志(1843)一「此堂に立寄て、たばこくゆらしけるに」
[2] 〘他サ下二〙 ⇒くゆらせる(燻)

くゆら‐・せる【燻・薫】

〘他サ下一〙 くゆら・す 〘他サ下二〙 =くゆらす(燻)(一)
※大和(947‐957頃)六〇「女の燃えたるかたをかきて、煙をいとおほくくゆらせて」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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