狼煙(読み)ノロシ

デジタル大辞泉 「狼煙」の意味・読み・例文・類語

のろし【狼煙/烽火】

合図警報のために、たきぎ火薬などを用いて高くあげる煙。とぶひ。ろうえん。
一つの大きな動きのきっかけとなるような、目立った行動。「改革の―が上がる」
[類語]けむりけぶり・火煙・白煙黒煙炊煙・朝煙・夕煙紫煙香煙硝煙砲煙煙幕噴煙排煙油煙煤煙すすくゆらす煙い煙たいむせっぽい合図信号シグナルサイン手招き目配せウインク片目をつぶる暗号目交ぜ目印合い印標識烽火号砲警鐘半鐘振鈴

ろう‐えん〔ラウ‐〕【×狼煙/××烟】

《昔、中国でおおかみふんを入れて焼いたところから》のろし狼火ろうか

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精選版 日本国語大辞典 「狼煙」の意味・読み・例文・類語

のろし【狼煙・烽火】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 戦時、非常時の緊急連絡のためにあげる煙。中世以後の称で、古くは烽(とぶひ)と称した。ろうえん。→烽(ほう)
    1. [初出の実例]「山科より将軍塚まで足軽かけ、又のろし上げ候」(出典:祇園執行日記‐天文元年(1532)八月一六日)
    2. 「相図の烽火(ノロシ)を上ると村々で法螺を吹ば」(出典:浄瑠璃神霊矢口渡(1770)四)
  3. ( 比喩的に ) 一つの大きな事を起こすきっかけとなるような目立った行動。
    1. [初出の実例]「時たま健全な組合的運動が烽火を挙げても、此の目茶苦茶者のために直ぐもみ消されなければならなかった」(出典:女工哀史(1925)〈細井和喜蔵〉一三)
  4. ( 夜あげる花火に対していう ) 昼間あげる花火のこと。

ろう‐えんラウ‥【狼煙・狼烟】

  1. 〘 名詞 〙 ( 昔、中国で、おおかみの糞を混ぜて焼けば煙が直上するといって用いたところから ) 敵の襲来などを味方に知らせるために、藁(わら)、生柴などをたいて上げる煙。のろし。烽火。狼火。狼燧(ろうすい)
    1. [初出の実例]「狼煙(ラウエン)天、鯢波動地、至今四十余年」(出典:太平記(14C後)一)
    2. [その他の文献]〔温庭筠‐遐水謡〕

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改訂新版 世界大百科事典 「狼煙」の意味・わかりやすい解説

狼煙 (のろし)

遠方から合図を送る手段として発煙,発火により緊急事態を伝達する方法。古来とりわけ戦時の急を要する連絡用として用いられた。中国,日本ののろしが知られるが,ヨーロッパやアメリカにおいても,のろしはコミュニケーションの手段として古くから用いられた。のろしの原理は自然現象にもみられ,煙と火を噴き上げるイタリアなどの活火山は,地中海を航行する船に昼夜を問わず方位を知るための便を供した。のろしの実例としてはアメリカ・インディアンの例がなじみが深いが,1世紀にローマ帝国の侵入をうけたイギリスのピクト人が危険を知らせるために用いた例などがある。近世にも,たとえば1588年にスペインの無敵艦隊がイギリスに接近した際,丘から丘へとのろしを上げて急を知らせた。〈のろし〉にあたる英語には〈signal fire〉〈signal smoke〉〈beacon〉などがあり,ビーコンにはのろしをあげる場所としての丘,あるいはそのための施設(塔)や見張台が設置された丘という意味もある。今日でもウェールズのブレコン・ビーコンズBrecon Beacons(グウェント州),エクスムアのダンケリー・ビーコンDunkery Beacon(サマセット州)など,ビーコンの語がついた地名がイギリス各地に残っている。

 〈のろし〉の字は,中国では杜甫の〈春望〉によって知られる〈烽火〉のほか,〈烽煙〉〈烽燧〉(後述)などと書かれたが,〈狼煙〉と書かれるのは遅くとも唐代になってであった。それは李商隠などの唐詩に散見される。俗に山中の狼の糞を拾い集め混じて製するために〈狼煙〉の字があてられ,日本では鎌倉時代から〈狼煙〉の字が見られるというが,唐の段成式の《酉陽雑俎(ゆうようざつそ)》には〈狼糞の烟,直上す,烽火これを用う〉という説明がある。これを敷衍したのが,宋の陸佃の《埤雅》で,〈古(いにしえ)の烽,狼糞を用う。その煙,直にして聚(あつま)り風吹くも斜ならざるを取る〉という。白色で毛のまじる狼糞は,また肉食獣特有の硝酸分が多く含まれていたためであろうか。
執筆者:

のろしである烽燧(ほうすい)は,中国では周の幽王褒姒ほうじ)の烽火説話が人口に膾炙(かいしや)するように,先秦時代より存在したが,現在のところ物的証拠があるのは漢代からである。漢では対匈奴戦のため西北方の辺疆地帯に防衛陣地を造り,軍隊が駐屯する拠点間には(ほうすい)と呼ぶ看視哨を置いて3,4名の兵を常駐させ,敵兵の動静を報告させた。その遺址は今でも敦煌・エチナ(額済納)川流域などに多数残存し,20世紀初めのA.スタイン,S.ヘディンらの中央アジア探検隊は,この遺址を調査して,木簡をはじめ多数の遺物を発見し,当時の実態がしだいに明らかになった。ことに1974年に行われた甘粛省居延考古隊によるエチナ川流域の発掘で,破城子の甲渠候官(こうきよこうかん)遺跡より出土した〈塞上烽火品約(さいじようほうかひんやく)〉という17簡よりなる王莽(おうもう)時代の冊書は,どの地帯に匈奴人がどれだけ来たときにはこのような信号をあげるということを詳しく定め,砂あらしのため信号があげられないときの処置や,間違った信号をあげたときの取消し方法にいたるまで,まことに行き届いた規則が定まっている。

 信号は後世日本の軍防令に〈昼は烟を放ち,夜は火を放つ〉とする大原則がこのころから決まっていたが,すべてで4種類の信号があり,(1)は表,あるいは烽という赤白の繒布で作ったはた,(2)は兜零(とうれい)という小さなかごに燃焼するものを入れて,はねつるべ(桔)式に上下させる烟による信号,(3)は苣(きよ)というたいまつ(苣火)で行うもの,(4)は積薪(せきしん)といって,葦の束や薪をたてよこ交互に,駅で枕木を積むように積み上げたものに火をつけ,昼は烟,夜は火で知らせるものなどがあり,この組合せで意味するところが違った。この原則は唐・宋時代でも変わらなかった。またのろしそのものは清末まで軍事用に使われ,やがて鉄道の開通等によってすたれたが,烽台の遺跡は万里の長城などに残っている。なお,烽燧は敵襲を報ずる手段であるから,その管理も厳しく,晋令では誤って烽燧をあげたものは罰金1斤8両,故意にあげるのをおこたったものは棄市の刑に処せられたという。
執筆者:

日本古代の軍事施設。飛火の意。各地と都を結ぶ連絡網の一つ。都の周辺には都に直結する烽(とぶひ)がおかれ,それらが軍要地の烽と結ばれていた。都周辺の例に大和国春日烽(飛火野),河内国高見烽(生駒山),平安京遷都に際しては牡山(おとこやま)烽(男山)がある。軍要地関係では,《肥前国風土記》《豊後国風土記》《出雲国風土記》にみえ,また出雲方面については《正倉院文書》734年(天平6)の〈出雲国計会帳〉に出雲と隠岐の国境,出雲・神門2郡に烽が増置され,試烽された経緯が詳細に記述されている。烽が実際に使用された例は740年藤原広嗣の乱時,広嗣が国内兵士を徴発する際の例しかわかっていない。

 日本の烽制は軍防令に規定されているが,唐の兵部烽式を継承したものと考えられ大要において類似しているが,その実行体制,警備方法,構成職員等において相異している点がある。799年(延暦18),大宰府所部を除いて廃止された。その後,880年(元慶4)大宰府管内で演習が行われたことがみえ,また寛平年中(889-898)隠岐,出雲地方が復活したが,その後衰微した。
執筆者:

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普及版 字通 「狼煙」の読み・字形・画数・意味

【狼煙】ろう(らう)えん

のろし。狼糞の煙は風に流れず、直上するという。唐・杜牧〔辺上に笳を聞く、三首、一〕詩 何(いづ)れの處ぞ笳を吹く、(はくぼ)の天 垣高鳥、狼に沒す

字通「狼」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「狼煙」の意味・わかりやすい解説

狼煙
のろし

石川県能登半島の北東端,珠洲 (すず) 市北端の地区。漁港があり,海岸段丘上の禄剛 (ろっこう) 崎には禄剛崎灯台があり,一帯は能登観光の拠点の1つとなっている。地名は近くの山伏山でのろしを上げ,日本海を航行する船の便をはかったことに由来する。

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デジタル大辞泉プラス 「狼煙」の解説

狼煙

石川県珠洲市にある道の駅。主要地方道大谷狼煙飯田線に沿う。

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世界大百科事典(旧版)内の狼煙の言及

【珠洲岬】より

…能登半島の内浦(富山湾側)と外浦(日本海側)の分岐点で日本海航路の要衝に当たるため,奈良時代には禄剛崎に烽火(のろし)台が置かれ,1883年には洋式灯台が設置された。いま岬付近に狼煙(のろし)町という小漁業集落がある。北部の海食崖および千畳敷と呼ばれる波食台,金剛崎の能登二見(ふたみ)の奇岩など海岸風景に富み,能登半島国定公園に指定されている。…

【オオカミ(狼)】より

…風が穀物畑をわたるときオオカミが走るといわれ,オオカミは〈穀物狼〉とか〈麦狼〉と呼ばれて穀物畑の生長霊とみなされることもあり,同時に畑に入らないようにとの〈子おどし〉にもなっていた。狼男【谷口 幸男】
[中国]
 北方の遊牧民,狩猟民はオオカミの糞をたいてのろしにした。〈狼火〉〈狼煙〉といい,風が吹いてもまっすぐに上がるという。…

※「狼煙」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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