煙る(読み)ケムル

デジタル大辞泉 「煙る」の意味・読み・例文・類語

けむ・る【煙る/×烟る】

[動ラ五(四)]《「けぶる」の音変化》
煙が盛んに出たり、辺り一面に広がったりする。「たき火が―・る」
雨・霧・かすみなどで辺りがぼんやりする。「雨に―・る町」
新芽若草え出てかすんだように見える。
両岸は緑野低く春草―・り」〈独歩・わかれ〉
[類語]燻る燻ぶる燻すくゆるくゆらすくすぶるけぶる煤ける燃える焼ける燃え盛る燃え広がる燃え上がる燃え立つ燃す燃やす焚くくべる火達磨燃焼完全燃焼不完全燃焼

けぶ・る【煙る/×烟る】

[動ラ五(四)]《「けむる」の古形
けむる1」に同じ。
御飯たいて居て、余り―・りましたから」〈鉄腸雪中梅
けむる2」に同じ。
裏町は―・るように白い砂けむりをあげて」〈宇野浩二・晴れたり君よ〉
けむる3」に同じ。
「いつしかと気色だつ霞の、木の芽もうち―・り」〈初音
ほんのりと美しく見える。
「面付きいとらうたげにて眉のわたりうち―・り」〈若紫
火葬にされる。
「向ひ居てみるにも悲し―・りにし人を桶火の灰によそへて」〈和泉式部続集

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「煙る」の意味・読み・例文・類語

けぶ・る【煙・烟】

  1. 〘 自動詞 ラ行四段活用 〙 ( 後世は「けむる」 )
  2. けむりが立ちのぼったり、立ちこめたり、たなびいたりする。くすぶる。
    1. [初出の実例]「高どのにのぼりて見れば天の下よもに計布理(ケフリ)て今ぞ富みぬる〈藤原時平〉」(出典日本紀竟宴和歌‐延喜六年(906))
  3. 新芽や若葉などが一面に出そろって、かすんだようになる。新緑が一面にもえ出る。
    1. [初出の実例]「林を見れば木の芽けぶりて」(出典:宇津保物語(970‐999頃)俊蔭)
  4. ほんのりと美しく見える。手入れをしていない子どもの眉などが、ぼうっと美しく見えるさまをいう。
    1. [初出の実例]「つらつき、いとらうたげにて、眉のわたり、うちけふり、いはけなくかいやりたる額つき」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若紫)
  5. 火葬のけむりとなって立ちのぼる。荼毘に付される。
    1. [初出の実例]「むかひゐてみるにも悲しけふりにし人ををけひのはひによそへて」(出典:和泉式部続集(11C中)上)
  6. 霞や霧などが立ちこめたり、たなびいたりする。あたりがぼんやりとかすむ。
    1. [初出の実例]「をしほの山の小松が原より、けふるかすみの遠山桜」(出典:光悦本謡曲・小塩(1470頃))

けむ・る【煙・烟】

  1. 〘 自動詞 ラ行五(四) 〙 ( 古くは「けぶる」 )
  2. 煙が立ちのぼったり、たなびいたりする。煙がさかんに出る。
    1. [初出の実例]「それと見よ都のかたの山ぎはに結ぼほれたるけぶりけむらば」(出典:和泉式部集(11C中)上)
  3. 煙がたちこめたように周囲がかすむ。あたりがぼんやりする。また、比喩的に心のうちがはっきりしないで暗くなる。
    1. [初出の実例]「すすきかるかやかぜにみだれ、もみぢけむるむらしぐれ、にしきの山にことならず」(出典:御伽草子・貴船の本地(室町時代物語大成所収)(室町末))
  4. 一面が新芽の薄緑でかすんだようになる。
    1. [初出の実例]「両岸は緑野低く春草煙(ケム)り」(出典:わかれ(1898)〈国木田独歩〉)

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