左方,右方に分かれ,たがいに物を出し合って優劣を競い,判者(はんじや)が勝敗の審判を行い,その総計によって左右いずれかの勝負を決める遊戯。物合は歌合,相撲(すまい),競馬(くらべうま),賭射(のりゆみ)などとともに〈競べもの〉の一種であるが,歌合,詩合などをも含む広範囲に及ぶ各種の合わせものを一括していうことも多い。平安時代に宮廷貴族社会を中心に行われ,一般にも普及し後世に及ぶ。清少納言は《枕草子》の〈うれしきもの〉の条に〈物合,なにくれといどむことに勝ちたる,いかでかはうれしからざらむ〉と記している。種類も多方面にわたり,近世まで含めると,(1)植物では,草合,根合(ショウブの根),花合(主として桜),紅梅合,瞿麦(なでしこ)合,女郎花(おみなえし)合,菊合,紅葉合,前栽(せんざい)合など,(2)動物では,鶏(とり)合,小鳥合,鶯合,鵯(ひよどり)合,鶉(うずら)合,鳩合,虫合,蜘蛛合,犬合,牛合など,(3)文学では,歌合,詩合,物語合,絵合,扇紙(扇絵)合,今様(いまよう)合,懸想文(けそうぶみ)合,連歌合,狂歌合,発句合など,(4)文具・器物では,草紙合,扇合,小筥(こばこ)合,琵琶合,貝合,石合など,(5)武技・遊芸では,小弓合,乱碁合,謎謎合,薫物(たきもの)合,名香(みようごう)合など,(6)衣類では,小袖合,手拭合など,が行われている。物合は隣接する歌合にも風流,装飾などの面で影響を与え,純粋歌合のほかに物合的要素を採り入れた歌合も多い。内裏菊合(888~891),円融院扇合(973,実際には扇に添えられた歌を内容とする),斎宮良子内親王貝合(1040),正子内親王絵合(1050),郁芳門院根合(1093),後白河法皇今様合(1174)などは名高く,《源氏物語》の〈絵合〉の巻には,梅壺方,弘徽殿方の女房の絵合で,源氏の須磨の絵日記により梅壺方が勝つことがみえている。また平安末期の《年中行事絵巻》(模本)には地下(じげ)・堂上家(とうしようけ)それぞれの鶏合のさまが描かれている。王朝貴族社会における物合はたんなる物競べにとどまらず,和歌を詠んで添えたり,遊宴を伴うことも多く,洗練された美的感覚による優雅華麗な行事として演出されるなど,文化史上特筆すべき分野を形成しており,後世に与えた影響は大きい。
執筆者:中村 義雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ある定められた事物を持ち寄って比べ、その優劣によって勝負を争う遊戯を広く物合と称する。左右両方に分かれて競い、判定のために判者が置かれるのが基本的な形式であるが、盛大に行われる場合には、ほかに左右双方に頭(とう)、念人(ねんにん)(応援者)や勝負の記録を担当する籌刺(かずさし)が置かれ、舞楽が奏されることもあった。古く『日本書紀』にも鶏を闘わせたことが記されているように(雄略7年8月)、二つのものの優劣を競い合うこと自体は、遊戯としてきわめて素朴な発想によるものであり、その明確な起源は知りがたい。しかし物合が貴族社会の娯楽として盛大かつ形式的に整った儀式的なものとなっていく過程には、同じく左右に分かれて競うという共通点をもつ相撲(すまい)の節会(せちえ)、賭弓(のりゆみ)、競馬(くらべうま)といった儀式の影響を想定しうる。
比べる事物としては、動物(鳴き声、姿、強弱)、植物などの自然の物から工芸品、才芸まで、とくに限定があるわけではなく、闘鶏(とりあわせ)、闘犬、闘牛、虫合、闘草(くさあわせ)(草合)、前栽(せんざい)合、菖蒲根(しょうぶね)合、瞿麦(なでしこ)合、女郎花(おみなえし)合、萩(はぎ)花合、菊合、花合、紅葉合、貝合、角合、扇合、琵琶(びわ)合、小筥(こばこ)合、物語合、双紙合、絵合、歌合、今様合、験合など多種多様にわたる。また、競技の際には、比べる物にちなんで詠まれた和歌が添えられて、出し物とあわせて判定の対象となることがあったが、歌道、なかんずく平安後期以降の歌合の盛行とともに、その和歌の占める比重が漸次大きくなり、物合は一種の文芸的な遊戯の色合いを濃くしていった。
[杉本一樹]
合物とも。人々が左右にわかれて競いあい勝ち負けを決める遊びの総称。範囲は広く,平安時代以降には鳥合の闘鶏,犬合の闘犬のほか,公家や僧侶の日記に草合・根合・花合・扇合・鶯合・虫合・絵合・歌合・薫物合(たきものあわせ)などがみえ,多種多様な遊びとして各階層に好まれた。また貝合から百人一首になり,物合の発想は花札などかるた類に同じ種類をあわせる方法としてとりいれられた。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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